幽霊の足
山ちゃんがそう云うと、俺も少しは余裕ができていた。
「なるほどそうか。そんじゃ、お祝いに、一杯御馳走しておくんなよ」
「そうかい、やっと正気に戻ったか」
俺は山ちゃんのおごりで一杯頂いてから、やっとまともに考え始めたってぇわけだ。
「ってえことは、俺は夢でも見たってえことだな。なんでそんな夢を見たのかねえ」
「そりゃあ簡単だ。常日ごろの願望が、そんな物騒な夢を見させたんだ」
「山ちゃん、そりゃあないだろう。そんなことがかかあの耳にでも入ったらてえへんだ」
「あんたもよくいうねぇ。あたしはしっかりとその話を聞いたよ」
「何を云ってるんだ、お梅。今の話は山ちゃんが云ったことだ。俺が云ったわけじゃねえ」
「常日ごろ、あんたがそんなことを山さんに話していたからじゃないのかい?」
俺は風向きが悪くなって来たもんだから、もう一杯酒をあおるとそこから退散した。
しかし、帰るところは長屋しかない。酒のおかげでちょっといい気分で帰って来ると、布団の中はもぬけの空だった。そうかやっぱり夢だったんだ。何事もなくて良かった、よかったと、布団の中で思いながら俺がうとうとしていると、隣の所帯が何やら騒がしくなった。
これじゃあとても寝てられないというわけで、俺は起き上った。隣を覗いてみると、そこに居たのが山ちゃんだった。