釣った天使
カナエの姿が見えなくなっていく。そして光の物体がゆるやかに俺の上空を旋回して、やがて見えなくなった。
俺は腰を下ろし、そして寝そべった。まだ感情の整理がつかない。カナエがいなくなったことだけがはっきりしていた。ここで最初に出会った驚きのシーンが蘇る。膝の上で丸くなってなでられていた姿や、俺が風呂から出るのをドアの前でチョコンと座って待っていた姿も思い出した。腹の立つ思いをあった筈なのに、カナエの笑顔だけが思い出される。
見上げている空から白いものが舞い踊りながら落ちてくる。
「雪だ!」
誰もいないのに俺は声を出して言った。寝そべったまま、雪を見ていた。だんだんと大粒になってくる雪、まるで天使の子供だと思い、それに対して少し気恥ずかしさ覚え苦笑いをする。笑った筈なのに涙がにじんできた。寒さも感じ始めたが、このままずっとこうしていたいという気持ちもある。頭の中に残っている「ありがとう」に応えて、小声で空に向かい「ありがとう」と言った。何か吐き出してしまいたいような感情が胸の中にあるが、それは寒さで凍っているようにつかえたままだ。解凍して出してしまえばすっきりしそうにも思えたが、それはそれで惜しいような気もした。
俺は「帰るよ」と誰へともなく言って山を降り始めた。
(終)