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釣った天使

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釣り天


ふと思い立って俺は独りで紅葉を見に来て、その帰り道に殆んど車の通らない真っ暗な山道で道に迷ってしまった。カーナビなんてものはつけていないので、自分の勘だけで走らせていたが、ふと気が付くと同じ所をぐるぐる廻っている気がする。今度は自転車並にスピードを落して左右を見ながら走らせて見たが、同じことなのでその日は車の中で眠ることにした。樹と樹の間が開いている所へ車を乗入れ、外の様子を伺った。しばらくすると虫が鳴き始めたが、他に人間がたてている音は聞えなかった。

俺は缶コーヒーを飲み、一息ついて、お腹が空いているの気付いた。ぼうっとして妻におみやげをと買ったが、妻とは先月離婚したことに気付くというドジで買った土産物のまんじゅうを取り出して立て続けに5個ほど食べた。ルームライトで地図を眺めてみたが、現在地がの見当はつかなかった。そのうちにいつの間にか眠ってしまった。

小鳥の鳴く声と寒さで目がさめた。朝日が小山の稜線から出るところだった。みるみるうちに辺りが緑と黄色と赤と茶色の世界になって行く。しばらく見とれていたが、はっと気が付いた。今日は月曜日だ、帰らなければならない。いくらデザイナーという自由業でも得意先からの電話があるだろうし、と思って車を山道に戻した。下りに向っていけば人家はあるだろう。そこで現在地がわかればなんとかなる。そう思って走り出した。

しばらく走って奇妙な建物があるのを見つけた。アマチュア無線家が建てるような鉄塔が四本建てられていて、それを基点に四方をネットで覆っている。鉄塔もかなり高さがあって、上の方は霞んで見えない。俺は好奇心でその建物に向った。手前に小さな小屋がある。裏に回って見ると小さな物置があってその前に竈があった。

今どき仙人みたいな生活をしているのかなと思いながら見てると、小屋の入口に「釣り天」と看板が出ているのに気が付いた。釣りにしては近くには川も沼も堀も無かった。天ぷら屋でもなさそうだ。第一こんな辺鄙な所では客がこないだろう。俺は持ち前の好奇心でその引戸を開けた。

俺が思い描いた通りの仙人では無かったものの、やはりお約束のという感じのひげをはやし、仙人というより変人という感じの男が俺を見ると黙って壁を指さした。そこには、

 料金
 一、入園料 一回   百円
 二、貸釣糸 日暮れまで百円
 三、エサ代      百円
 四、便所  大    百円
       小    無料
 五、食事  釣れたもの料理 百円
       オニギリ 百円
と書いてあった。変な百円ショップだった。
作品名:釣った天使 作家名:伊達梁川