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SEAVAN-シーヴネア編【未完】

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 劣勢の側が勝ち戦に持っていくには、策を弄さねばならない。でも、それなら私は表に出る必要はないのではないか。
 シーヴァネアはそう思うのに、セリエンの考えは違った。
「だからこそ、陛下に出て頂く必要があるのです。この策に適する兵は、空軍グラスリール以外に、私は存じ上げませぬので」
「グラスリールを……!」
「あれは陛下直属の部隊ですから、私が勝手に出陣させるわけにもゆきませぬ」
「でも!」
「陛下、グラスリール以外にわが国の将で反乱軍に兵を貸そうとするものは、おそらくいないでしょう」
 つまり、反乱軍を支援するには、どうあってもグラスリールを出さなければいけない。そのためには、シーヴァネア自信が戦場に赴く必要がある。それ以外にある道は、反乱軍を見捨てることのみ。
 でも、グラスリールを出す。その選択肢だけは絶対に選びたくはなかった。むしろ絶対に自分がしてはいけない。そんな強い拒絶があった。
 でも、かといって反乱軍を見捨てることも、シーヴァネアには出来なかった。指導者もない、援助をしてくれる後ろ盾もない。そんな組織がフェルディアスの軍とやりあえば、結果は目に見えている。いずれは潰されて跡形もなく消え去ってしまうだろう。
「時間…時間がほしい…。明日まで、返答を待って」
 やっとのことでそれだけ告げると、セリエンは黙って頭を下げ、リンゼルは最後の頼みとばかりに跪いた。
 そんな二人から目を離し、シーヴァネアは玉座を離れた。
 後ろは振り向かず、早足で昇降機に乗り込んだ。
 時間を延ばして一体どうするのか。閉ざされた狭い空間で、シーヴァネアは自問した。
 悩んで悩んで先延ばしにしたところで、事態はきっと変わらない。
 むしろ、こうしている間にもかれら反乱軍になにかしらの危機が迫らないとも言えない。
 それでも、シーヴァネアに答えを出すことは出来なかった。
「どうすればいいっていうの…。教えてよ、みんな…っ」
 嗚咽のような、悲鳴のような、独り言。
 けれど、狭い昇降機の中で、それを聞くものはなかった。
 
 メレンデ王宮裏手は、王宮で働く女官たちの住処である。王宮の華やかな外観の合間に、ひっそりとある質素な空間。
 今は晴れ渡った日中と言う、仕事をするには最適の時間帯であるために、寄宿舎の方はがらんとしている。そのかわり寄宿舎脇の洗い場は、相当数の洗い終わった洗い物とそれを片付ける下働きの女官たちで忙しかった。
 そんな中、フィエラが後回しにしておいたシーヴァネアの洗い物を抱えて、一人遅れて入ってくる。
 書状を預かったり、シーヴァネアの着替えを手伝ったりとですっかり遅くなってしまったのだ。
 本来洗い物等の大仕事は皆で協力して片付けてしまうのものだが、流石に遅くなると他の者達の迷惑になる。そう思って自分で洗おうと決めてきたのだが、洗い場に入ったところで仕事を終わらせたばかりらしい、同じ年頃の女官に声をかけられた。
「フィエラ、今日は災難だったわね」
「アンナ」
「女官長に嫌味言われたんですって?」
 その年代特有の好奇心見せて、少女は近寄ってくる。
「でも!そこに宰相閣下が助けに入ってくれたんでしょ!?」
 うらやましい、とアンナは両手を組んで目を輝かせる。
「いいわねぇ、あの宰相閣下に助けていただけるなんて!やっぱり閣下って間近で見るほうがお美しいのかしら?」
 どうだったと迫られて、フィエラは少しばかり気圧されながら、先ほど見た宰相のことを思い出してみる。
「そうねぇ…。お美しいのはお美しいんだけれど…」
 ふっと浮かんだのは、氷のように冷たい色をした瞳。それから、まるで機械のように正確な所作。
 宰相を美しいと評する者は多いし、確かにフィエラ自身もそう思う。けれどその美しさはなんだか恐ろしくて…。
「フィエラ?」
「ああ、ごめんね。ぼーっとしてて…」
「そんなにぼーっとしちゃうくらい素敵だったの?」
 また更に問われて、フィエラは苦笑した。
「そうね、すてきだった」
 それだけ言って、洗濯籠を抱えなおす。
 宰相セリエン=クルーズの話はこれ以上しない方がいい気がして、洗い物を済ませるからと、アンナから逃れようとする。
 でも、彼女はそんなフィエラの内心など気付かず、
「じゃあ、手伝ってあげるからもっといろんなお話聞かせてちょうだいな。あんたみたいな運の良い娘とちがって、私達みたいな下働きは王宮にいても滅多に高貴な方々になんてお目にかかれないんですからね!」
 フィエラはその言葉にどう返答したものかと悩んだが、結局断る理由が見つからなくて、そのまま手伝ってもらうことになってしまったのだった。
 
 人のはけた洗い場で、二人は肩を並べてシーツやタオルを洗っていた。
 もともとシーヴァネア一人の洗い物だから二人で分けてしまえば終わるまでにそう時間はかからない。
 それでもフィエラにはその短いはずの時間が、アンナの憧れ話でやたらと長く感じられていたのだが。
「ほんとうらやましいわよね。王宮に入ったときは、あたしと同じでただの下働きでしかなかったのに、今は女王陛下付きの女官なんですもの。でも、私なんかじゃとてもじゃないけど、陛下のお世話なんてできないわ」
「どうして?」
「だって、陛下は私たちシーヴァニスの女神なのよ? あんな神々しいお方のお側に侍るなんて、考えただけでも畏れ多くて。ほんと、フィエラがうらやましい」
 アンナの台詞を聞いて、フィエラはきょとんとした。
 シーヴァネアが神々しい?
「そう? 陛下だって普通の人と同じだと思うけれど」
 そう言えば、アンナのほうが目を丸めた。
「フィエラ! あなた何言ってるの! 陛下を他の凡人と同じように言うなんて、それでも陛下付きの女官? 罰が当たっちゃうわよ!」
 アンナは真っ青になって立ち上がった。
「それとも、やっぱり高貴なお方の側にいいると目までおかしくなっちゃうの? いいこと、フィエラそんなこと女官長の前じゃ絶対に言っちゃだめよ! こんどこそどうなるか分からないから!」
 それだけ言うと、終わった洗濯物をフィエラに押し付けて、早々とアンナは立ち去っていった。
 フィエラはぽかんとその後姿を見送った。
「私、何か変なこと言ったかしら?」
 フィエラは首をかしげる。
 自分が知っているシーヴァネアは、いつもぼんやりと外を見ているか、わけの分からない行動をしてフィエラを困らせるかのどちらかだった。
 そりゃ確かに昔は自分もアンナが言ったように女王とは神々しいものだと思っていた。
 今だって、シーヴァネアは女王で、シーヴァニスたちの女神で、フィエラだってとても尊敬しているし憧れる。時折笑顔を見せてくれたときなんかは、やっぱり自分なんかとは違って高貴で美しいと思わなくもない。けれど、それれ全てを見ても神々しいというのとはなにか違う気がする。
 神々しいどころか、貴族たちの持つ気高さや優雅さなんてものもあまりなくて、普通に素朴な印象しか受けない。どちらかというと、愛らしいが一番近い。
 それに今朝だって。
 あれはもう、やはり手の焼ける妹のようなものでしかないような気がする。