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SEAVAN-シーヴネア編【未完】

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 女神であるならば、フェルディアスにある同朋を救うべきだ。虐げられている彼らに庇護を与えるべきだ。
 ああ、やはりこの男も同じことを言うのか。
 急に耳を塞ぎたくなった。
 確かに、代々の女王はシーヴァニスの女神シーヴァネアの化身として崇められている。そして皆、自分に女王としての姿を、女神としての姿を求める。何度も何度も聞かされてきたこと。でも、自分にはなんの力もなくて、ましてや神だなんてありえない。
 それは確かに、フェルディアスの下で虐げられているシーヴァニスがいることは知っている。哀れにも思う。
 けれど、自分にどうしろと言うのだ。戦を仕掛けたとしても勝ち目はない。かといって、あの国にシーヴァニスの保護を求めても受け入れてなどくれないだろう。
 本当の神様ならば、天変地異でも起こしてくれるのかもしれない。けれど自分にできることはただ水や風の話に耳を傾けることだけ。できることなんて何もない。
「陛下、私は陛下に何の提案もなく訴えているのではないんですよ」
 その言葉は、塞ぎかけた耳元に滑り込んできた。今までのような責めではなくて、のんびり世間話をするような。
 顔を上げると、リンゼルはまためがねをかけてのほほんと笑っていた。
「陛下は女神だと崇められてらっしゃいますけど、でも本当はただの人のはずです。人一人の力ではできることに限りがあります。でも、私がいれば大丈夫です!…たぶん」
 胸を張って断言したかと思うと、急に自信なげに縮こまってみたり。
 でも、そんなことはどうでも良くて、ただの人ならばできることに限界がある。そんな台詞を平然と言ってのけられて、シーヴァネアはきょとんとしていた。
 どうしてだろう。彼は他とは違う。
 今まで自分に何かを訴えていった者たちは、ただ自分に訴えるだけ訴えて願いを聞き入れてもらえなかったら不満を漏らして去っていくだけだった。こちらのことなんてまるで考えてもくれなかったのに。
 でも、リンゼルは違う。
「って、申し訳ありません。私は陛下にとんでもない口を利いてしまって…」
 リンゼルがはっと我に返って慌てて畏まる。しかも、慌てたせいでまた前につんのめりそうになって、シーヴァネアはこらえきれずに苦笑をもらした。
「慌てなくていいわ。聞かせて頂戴。あなたならどうするか」
 自然と、そんな言葉が口を突いて出た。
 リンゼルがぱっと子供のように破顔し、そのせいでまたバランスを崩してわたわたと両手で空をかいていた。
 現在、フェルディアスに置けるシーヴァニスの現状は劣悪だった。一部の能力者たちを除けば、それらはほとんど奴隷の扱いと変わらない。
 彼らを救うためにフェルディアスへ攻め込むべきだ。そう訴える過激な宗教指導者も少なくはない。だが、現状の軍事力でフェルディアスに攻め込むことははじめから負け戦を仕掛けるに等しい。
 かといって穏健派が言うようにフェルディアスにシーヴァニスを保護するよう求めたところで受け入れてくれるはずもない。現在のフェルディアス国民であるグライディリスは、100年近く前までは各地のシーヴァニス系国家で虐げられていた者がほとんどだ。彼らの、シーヴァニスに対する憎悪は根深い。
 ならばどうすればよいのか。
 答えは、リンゼルが持っていた。
「フェルディアスの南西に、リムーアと言う街があります。ここに、フェルディアス各地の反乱組織が集まっています。シーヴァニスとは限りません。グライディリスも多くいます。ですが、彼らにはまだまだ力が足りない。フェルディアスの圧倒的な軍事力の前では、ゲリラ戦を展開するにも限度があります。そこを我々が支援し、フェルディアスを内側から崩壊に導くことができれば、フェルディアスは変わります」
 そうリンゼルが指摘する。
「でも、それは本当にフェルディアスを倒せるほどの組織なの?指導者は?」
 すると、少しばかりリンゼルは表情を強張らせて地図を広げた。
「これが彼らの現在の勢力図です」
 広げられた地図の各所に記された点。それはフェルディアスの主な都市をほぼ全て網羅し巨大なネットワークを築いていた。
 まさかこれほどまでの組織が、フェルディアスの地下に眠っていようとは。
「今、この組織を率いるのは、リエレイ=リムーアという方です」
「リエレイ…。女性なの?」
「そうです。でも、彼女は今の現状を憂えてはいるものの、それほど財源も知識ももっているわけではない。他にもいくつか大きなエリアをまとめる者はいますが、彼らもまだまだ力が足りないのが現状です」
「じゃあ、これだけの組織を率いるほどの指導者は…」
「実質的にはいません。集ってはいるものの、まとまりきれてはいないんです」
「どこかで何か起きればすぐに崩壊してしまうかもしれない…」
「そうです。ですから、メレンデの助力が必要なのです。今はリエレイさんがどうにか結び付けてくれていますけど、それぞれの意見が食い違ってなかなか事態は進展しない。そこで陛下が後ろ盾になってくだされば、きっと今よりずっと固い結束ができるはずです。そうすれば、必ずフェルディアスを覆せる。それをするだけの原動力が、ここには眠っているんです」
 リンゼルの声が次第に声高になっていた。必死で訴え、助力を願っている。
 確かに、自分が女神の名において支援すれば、まとまるのかもしれない。そして、これだけの組織ならば、強力な指導者と資金さえそろえばフェルディアスを内側から切り崩すことも可能だろう。あくまで国に従属する軍と違って、彼らは元々一介の市民だったはず。それに不満を持っていても表立って反抗することが出来なかった者たちが呼応すれば、今以上の巨大な勢力になる。
「わかりました。でも、私の意思だけでは決められない」
 そう。いくら自分だけが彼らに同情し、協力したいと思っても、他が許さなければそれは実行できない。
 そして、その最大の難関であるのが。
 傍らのセリエンに視線を向ける。彼は既にこちらを見据えていた。
「先ほども私は申しました。陛下に確固とした理由がおありならば、私に反対する理由はございません」
「じゃあ」
「ただし」
 セリエンの無感情な声が紡ぐ。
「出兵の際は陛下御自らに兵を率いていただくことになりますが、よろしいですね」
 それはどういうこと。
 そう問う言葉が、その瞬間声にならなかった。
 出兵の際はシーヴァネア自信で兵を率いる。それはいったいどういう意味?
 自分に用兵の知識なんてひとかけらもないし、メレンデ軍の中核を成す武将達が自分のことを不甲斐ないと思っていることも知っている。そんな彼らが、自分の意見を聞き入れてくれるわけがない。
「お言葉ですが宰相閣下、兵をお貸しいただけるのはとてもありがたいお話ですが、陛下に表に立っていただくわけにはいきません」
 リンゼルが止めにかかった。だが、セリエンはしたり顔でリンゼルの言葉の先を遮った。
「分かっている。我々が表立って動けば、フェルディアスも全力を出さざるを得ないだろう。そうすれば、多大な犠牲が出る上に得るものはどうなるかわからぬ。そうせぬためには、彼の者達に動いてもらい、最後までフェルディアスに真の戦力を見せぬことだ」