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SEAVAN-シーヴネア編【未完】

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 なぜそうまで嫌うのかはフィエラにはよく分からないが、一つだけ言える事は今の女王シーヴァネア=レイディーナだけは自分の味方であるということ。今朝のように時々訳のわからない行動をしてくれたりもするけれど、フィエラにとってはそこもまた親しい友人か、少し大きな妹のようで愛らしいと思える。相手が女王であるだけに、そう思うことは不敬かもしれないけれど。
 そう思っている間に入り口にたどり着く。
 さて、あの女王陛下はまだ物憂げな顔をして窓の外を眺めているだろうか。宰相が見えているのだから少しは女王らしくしてもらいたいものだが。
 そんなことを思いながら、フィエラは扉の前に立ち、女王へセリエンの来訪を告げた。
 
 
 
 シーヴァネアが自分の部屋に戻ってきたのは、フィエラとセリエンがまだ本宮の中を歩いていた頃。
 得体の知れない例の銀色の男によって、一瞬で海岸の倉庫街から城の中へと連れてこられた。
 呆気に取られる間に男は軽く片目を瞑って、シーヴァネアの前から消えた。
「んじゃ、たのんだぜ」
 そんな無責任な台詞を言い残して。
 しかもシーヴァネアが男をひき止めようとした矢先に、ちょうどよく外から
「陛下、宰相閣下がお見えです」
 というフィエラの声。
 その隙とばかりに男はまるでかすみのように掻き消える。
 更にシーヴァネアは、自分の今の姿に気付いて慌てふためいた。だがそれは遅かった。
 扉となっているクリスタルの壁が、すっと消え去る。
「な、なんて格好していらっしゃるんですか!!シーヴァネア様っ!!」
 かくしてシーヴァネアのお忍び用少年スタイルはフィエラとセリエンの前にさらけ出され、シーヴァネアはフィエラの後ろで無表情のまま佇む宰相の姿に震え上がったのだった。
「も、申し訳ありません。すぐお支度を…!」
 フィエラがシーヴァネアの視線の先に気付くと、振り返ってセリエンに深々と頭を下げた。
 だが、セリエンは軽く手をかざして、フィエラの言葉を遮り、中に入ってきた。
「少し、よろしいですか。陛下」
 おろおろとフィエラが部屋の入り口付近でセリエンの後ろ姿とシーヴァネアの姿を見比べる。
 シーヴァネアはというと、セリエンのガラス玉みたいに感情の見えない瞳に迫られ、もう一度窓の外へと逃げ出したい気分になりながら、そこにふんばっていた。
「お手間は取らせませんので」
 感情の篭らない抑揚の薄い声が、シーヴァネアを脅しつける。
 ああ、もう今日はなんていう日なのだろう。
 先ほどはあの銀髪の男に迫られ、今はこの鉄血の宰相に迫られ、今日は脅されてばかり。
 そもそも、あの銀髪男にあんなことを頼まれなければ、こんな状況に陥る前に城に戻ってこれたというのに。
 そう、今はいない男を罵ってみるが、どうしようもできないことに変わりはない。
「陛下」
 そう、また抑揚の薄い声で呼びかけられて、シーヴァネアは我に返った。
「あ、わかりました」
 従順に答えかけて、シーヴァネアは言葉を切った。
 銀髪男の言葉が、頭をよぎった。
 フェルディアスを落としてほしい。
 まるで、小物か何かを取ってくれと言うようにさらりと、男は言った。
 シーヴァネア自身、一瞬冗談だと思ったくらい。
 当然そんなことを実際にしてやる義務はシーヴァネアにはない。
 でも。
「セリエン、私も話があります。」
 気が付くと、シーヴァネアはセリエンの無機質な双眸を見据えていた。
 セリエンの表情は変わらない。
 フィエラが、いつも以上におろおろとしている。
 そんなフィエラに、シーヴァネアは笑いかけた。
「少し、席を外してもらえるかしらフィエラ」
 そう告げると、彼女は一瞬意外そうに声を上げて、それからたどたどしく退室の許しを告げて下がっていった。
 部屋の中には、セリエンと二人になった。
 不思議と、セリエンと共にいるといつもうるさいくらいの風の精霊たちが近寄ってこない。風もなく、音もなく、静かだ。
 先に口火を切ったのはシーヴァネアのほうだった。
「セリエン、フェルディアスを落とすにはどうすればいいかしら」
 単刀直入に、シーヴァネアは切り込んだ。それでも、セリエンの表情は変わらない。
 冷たいガラス色の双眸で心の内を見透かされないかと、シーヴァネアはひやひやしていた。
 同じ相対するのでも、あの銀髪男とはまるで違う。あの男は得体は知れなかったけれどやたらと飄々としていて、すぐに恐怖は消えてしまった。そして、その巧みな話術でシーヴァネアにつけこんできた。
 シーヴァネアが求めて止まないものを得る方法を、あっさりと投げかけた。
 男は言った。
「フェルディアスを落としてほしい。そうすれば、あんたは自由になる」
 自由。
 それは今のシーヴァネアにとってなんとも甘美な言葉だった。
 いつも求めてやまないもの。何処までも広い空のような、何者にも媚びない風のような。
 フェルディアスを落とせば、手に入ると男は言う。
 フェルディアスが欲しいと、セリエンに告げさえすればいいと。
 馬鹿げたことだと思った。きっとセリエンも止めるだろう。
 一個人のわがままでそんなことをしたら、どうなるかぐらいシーヴァネアにだって分かっている。
 でも、ほんの少しだけ期待があった。
 セリエンはまだ何も返さない。
 じっと見据えられて、シーヴァネアは目を逸らしたくなるのをこらえた。
 セリエンが口を開く。
「わかりました」
 逆に、シーヴァネアのほうが耳を疑った。
「セリエン、本気で言っているの!?」
 無意識のうちに、シーヴァネアはセリエンに詰め寄っていた。
「フェルディアスを落とすってことは、2年前みたいな暴動をおさめることとは、訳が違う! メレンデ軍よりもフェルディアス軍の方が上だってことは皆知ってる! もし、全面戦争なんてことになったら、メレンデの方が圧倒的に不利に決まってるのに!? そしたら、みんな死んでしまうのに?」
 それでも可と言うのか。
 訴えるシーヴァネアに、セリエンは眉一つ動かさない。
 ただ、至極冷静な声で彼はシーヴァネアに問いかけた。
「そこまで分かっておいでなら、なぜ貴方はそれを望んだのです?」
 ああ、やはりこの宰相には一生かなわない。そう、シーヴァネアは漠然と思った。
「ごめんなさい…。軽率だったわ」
 セリエンの上衣に取りすがっていた指先から力が抜け、かすかな衣擦れを残してシーヴァネアはセリエンから手を離した。
 やはり、愚かだったのだ。自由になりたいなどと、そんな浅はかな思いで、自分の責任を放棄しようとした。
 そもそも、なぜフェルディアスを落とすことで自分が自由になどなれるのだろう。多分、これはあの男の方便でしかなかった。それにまんまとのせられた自分が愚かだったのだ。
「陛下」
 セリエンが抑揚の薄い声でシーヴァネアを呼んだ。
「先ほど、陛下の元にザフォル=ジェータという男が現れませんでしたか?」
 突然セリエンが口にした名に、シーヴァネアは驚愕した。
 それは、あの男が名乗った名だった。
「何かあれば、俺の名前を出すといい。ザフォル=ジェータ。そう言えば、あの宰相殿はこの世界最高の魔法士を思い出すだろうよ」