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SEAVAN-シーヴァン編【未完】

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 男は若かった。20代後半ほどだろうか。シーヴァンはこの男の名を記憶の中から探し当てようとした。しかし、それはできなかった。思い出したのは、貴族側の席に座っているものの、この男は貴族ではないということ。ここは東の沿岸地帯にあるレンバードの、商人ギルドの代表者が座る席である。ギルド長は最近病がちだと言うことだから、その代理として跡取り息子が代わりに出席したということなのかもしれない。
 だからなのか、まじめな顔で会議に出席している周囲とは対照的に、本人は全く会議に参加する気は無いらしく、早速舟をこぎ始めていた。
 呆れたため息が周囲の空気を揺らした。シーヴァン自身も興味が薄れ、視線を正面に戻す。それと同時に、奥の扉がようやく開いた。
 一斉に皆が席から立ち上がった。まどろみかけていた男も慌てて目を覚まし、立ち上る。軍人は皆、最敬礼で入場してきた二人を迎えた。
 扉の前に現れたのは、美貌の大総統。今日もそのしなやかな肢体に白の軍服をまとい、優雅さと妖艶さを兼ね備え、そこに佇んでいた。
 そしてその傍ら。セナに付き添われるようにして議事堂の中に入ってきたのが、まだ幼い子供。
 周囲に群がる大人たちを見上げ、子供ながら堂々と胸を張る。
 セナが柔らかく笑み、その子供を誘った。
「さあ、こちらへ。陛下」
 誘われた子供は、軽くうなずいて中央の玉座へと進んだ。
 子供の小さな体が、その小ささに見合わない巨大な金塊でできた玉座におさまる。その傍らに、大総統セナ=ギリウスが立った。
 そう、彼がこの国の現帝王ゼトラディウスであった。今年で即位2年目を向かえるこの国の主は、まだ10歳になったばかりの子供だった。
 
 
 
 まだあどけない顔で、ゼトラディウス帝は傍らのセナを見上げた。大勢の大人に囲まれて、安心感を傍らの母親に求めるのだろう。
 問い掛けられた母親は、幼い帝王に優しい母の微笑を向けた。
「ええ、ご立派です」
 ぱっと、幼い帝王の表情がほころんだ。
 だが、傍らの母は幼い帝王の表情の変化など気にも止めず、一同へと視線を向ける。その表情はもはや母親ではなく、常にある厳しい為政者の表情だった。
「では本日、皆様方にお集まりいただいた要件を申し上げる」
 そう、幼い帝王の傍らでセナは一同に告げた。
「その前に、皆様は2年ほど前の悲劇を覚えておいででしょうか。メレンデの国境においての暴動を。あのとき、我々は一人の戦士を反逆の罪で処罰いたしました。しかし、それがつい先日間違いであったことが判明したのです。彼は自らの意思でそれを起こしたのではなく、敵方の強力な魔術師に操られ、やむなくのことでした。そして、その後彼はその敵方に捕らえられてしまったのです」
「ちょっと待っていただこう」
 セナの言葉を、列席していた誰かが遮った。立ち上がったのは軍側の老将だった。
「恐らく大総統閣下のおっしゃっているのは、かのリム=イウルだとは思うが、彼は我々が刑を下して死刑に処したではないか?もう死んでいるものの話題をなぜまたそう議論せねばならんのだ」
「それは、彼が死んでなどいなかったからです」
 妖しい微笑が、立ち上がった老将を射止めた。
「彼をここへ」
 そう告げられて、自分は議場の扉を開けた。その向こうに、一人の青年が立っていた。みなが息を飲んだ。それは紛れも無く、アライム=マーナーだった。
 静まり返った議場に、アラムは一歩踏み出した。白い大理石の床の上を、彼の軍靴が踏んだ。
 彼はかつての魔法剣士隊の制服を纏っていた。白地に紺の縁取りをしたケープが、彼が歩むたびに翻る。やがてそれは玉座の前で止まり、アラムは初めて見える幼い帝王の前に跪いた。
「お初にお目にかかります、帝王陛下。アライム=マーナーにございます」
 深々と頭を垂れ、王の許しを得て顔を上げた。
 誰もがアラムのその一連の動作に目をくぎ付けにされていた。特に彼を良く知る軍の将軍達は信じられないと目をこすったり、首を振ったりを繰り返す。セナの奥に控えたミレニアなどは、目を潤ませ、耐え切れず口元を覆っていた。
「2年前、処刑されたのは偽者だったのです。彼はこの二年、リムーアに捕らえられていました。恐らくは、わが国を倒す切り札として彼を使おうとしたのでしょう」
「し、しかしセナ卿!」
 がたんと一人の議員が椅子を蹴立てて立ち上がった。貴族側の奥から5、6席目ほどのところに座った小太りの男だった。彼はきらびやかに飾り立てた醜い体から多量の汗を流しつつセナに問い掛けた。
「いったいその証拠となるものはどこにあるのです?本当にこのものが反逆を企てていなかったという根拠は?そもそも、この者を操るなど可能なのですか?」
「たしかにそうだ。もしそれが本当ならばこやつを取り戻してもこやつ以上の魔法士が存在すると言うことにはならんか」
 小太りの男に触発され、他の議員達も様々な疑問をセナへと投げかける。貴族、軍人問わずの声は、今まで静かだった議場の中をあっという間にざわめきで満たしてしまった。
「ご安心を議員方。そのような人間はもはやこの世には存在いたしません」
「なぜ、そのようなことが分かるのです」
 軍の次席に座した壮年の将軍が、セナへ厳しい目を向けた。
「それは後ほど別室でゆっくりとお話いたしましょう」
 セナは壮年の将軍に対し、妖艶な微笑で答えた。
 政治は色事で動かされるものではないが、セナのそれは妖艶であると同時にいかな老練の賢者でもねじ伏せてしまう強さを秘めている。実際、壮年の将軍は微笑一つで押し黙らされた。
「それでよろしいでしょうか、陛下」
 再び、セナは玉座の主に視線を落とした。今度ははっきりと、臣下として。対するゼトラディウス帝も、2度目は母と呼ばなかった。セナの言葉には軽くうなずき、跪くアラムを見据える。漆黒の双眸が、幼いながらも王としての責務を果たすため、深淵のような深みを持った。
「アライム=マーナー。よくぞ戻ってきてくれた。これからはフェルディアスのために、その力を振るって欲しい」
「かしこまりました陛下。このアライム=マーナー。わが国のため、陛下のために持ちうるすべてのものを捧げましょう」
 こうして、アラムは再びフェルディアスへの忠誠を誓った。
 
 議会は相変わらず続行している。舞台は別室に移り、余人を立ち入らせずない詳しい報告が議員たちの頭を悩ませているだろう。それとも、既に議員達は全てを納得しただろうか。いずれにしても高貴な身分の人間が考えることなど、彼らから見れば家畜以下の扱いでしかない自分達シーヴァニスには関係の無いことではあるが。
 そしてその自分達といえば、今は隣にある詰め所に戻されていた。先ほど、一人の若い男が部屋に入るのと入れ替わりに、人払いがされたせいだった。
 男は、自分の記憶には無い背の高い男だった。全身がその色で統一されていたからか、それとも一瞬こちらを見て微笑んだ闇色の瞳のせいか、「黒」という色彩の印象があまりにも強すぎて、顔はよく覚えていない。歳はアラムとほとんど変わらないようにだったが、その姿を見た議員の何人かが椅子から転げ落ち、慌てふためいている様が扉の隙間から垣間見えた。