SEAVAN-シーヴァン編【未完】
そう微かに笑って、彼は今来たばかりの道を戻ろうとする。彼がそう言うのであれば特に止める理由も見当たらず、シーヴァンも再び発着場へと足を向けた。
ちょうどそのときモノレールが発着場に入ってきて、共に乗り込む。
だが、モノレールが発車し、居住区に着く頃になってもミレニアは何も話しかけては来なかった。結局そのままモノレールは居住区で停止し、二人は並んで居住区の無機質な建物群の間を歩き出す。
沈黙だけが続き、一切の会話が無いままやがてミレニアと分かれる道にたどり着いてしまった。
「ミレニア、話が無いのなら私は行くが…」
シーヴァン自身としては、さっさと部屋に戻って休んでしまいたかった。疲労はたまっているし、用が無いのにこうして留まっているのも無益だ。
「待ってくれ、シーヴァ!」
だが、ミレニアの傍らを歩きすぎようとしたとき、彼がシーヴァンを呼び止めた。
「お前の部屋に行きたい。ここじゃ、話にくい」
周囲を見やる眼が、数人の人影を捕らえていた。
シーヴァンは嘆息した。
「それならば、初めからそう言ってくれ」
今度こそ、シーヴァンは自分の部屋に向かって歩き始めた。その後を、ミレニアは慌てて追いかけた。
部屋に戻り、扉を開ける。すると、途端に背後で微かなため息がこぼれた。
「相変わらず、お前の部屋は何もないなぁ」
両手を腰に当てて部屋の中を眺め回すミレニアの姿は、もう何度も見たものだった。
シーヴァンとしてはこれで何の不自由も無く構わないのだが、他人に言わせるとだいたい皆ミレニアのような反応をする。なぜなら8畳の部屋の中は支給された当初のまま。硬いスプリングのパイプベッドと、クローゼットが一つだけという質素さ。しかもクローゼットの中も、変えの制服が入っているくらいであとは特に何も無い。
一度ミレニアがこの惨状を嘆いて観葉植物を持ってきてくれたのだが、なぜか腐って結局捨てざるを得なかった。
「今度また何か持ってこよう。ああ、前みたいな失敗はしないから。このままじゃさすがに寂しいだろ?」
「それより、ミレニア。話があるんじゃなかったのか?」
尋ねると、彼は僅かに視線を背けた。道すがらで聞いてこなかったということは、何らかの機密に関わることなのだろう。この部屋ならばある程度は盗聴対策もとってある。
今の時期、何か話題になりそうなことといえばアラムのことだが。
「セナ様からお聞きしたんだが、第2隊の精鋭魔法士が5人死んだそうだな。あとの一人も重傷だと…」
ミレニアが尋ねてきたことは、シーヴァンの予想からは少しばかり外れたものだった。直球に切り込んでくるものと思っていただけに、僅かに返答が遅れる。
「……私の責任を追及しにきたということか」
「いや、そうではない。その魔法士たちのことは残念なことだが、それも任務であるならば仕方あるまい。それよりも、それぞれ別の属性を極めた魔法士6人が立ち向かって歯が立たない相手とは、いったいどんな人間だ」
ミレニアの表情がやや険しくなった。
そう聞いてくるということはもしかしてセナから何も聞かされていないのだろうか。それとも、知っていてなにか探り出そうとでもしているのか? 何を。
「まさかやはり新たなリム=イウルが…」
だが、シーヴァンが沈黙しているとミレニアが自分で結論付けてしまう。
新たなリム=イウル。彼はそう言った。
ということはやはりセナから何も聞かされていないのだろう。ならば、シーヴァンが話すべきことではない。
「明日になれば分かる」
「どういうことだ」
やはり、ミレニアは間髪をいれずに聞き返してきた。
「明日の議会で、閣下が全てを明かしてくださるだろう。それまでは、私は何も言わない」
図らずも、その返答は先ほどイリアに答えたものと同じになってしまった。ただし、イリアはリエレイの正体を知っている。その分、この言葉の意味も変わってくるだろう。セナの側に仕えていながら、何も知らされていないと言うことは、話す価値もないと見られているかも知れないのだから。
「これ以上話が無いのなら、帰ってくれないか。昨日は眠っていないんだが」
そう告げると、ミレニアは半ば上の空で部屋を出ていった。ミレニアがセナにどう思われていようと、シーヴァン自信には関わりのない。そう思うはずであるのだが、その背中がやけに小さく見えたのは気のせいだったろうか。
作品名:SEAVAN-シーヴァン編【未完】 作家名:日々夜