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SEAVAN-シーヴァン編【未完】

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 イリアの包帯に巻かれた腕が上からシーヴァンを抱き寄せようとする。それをシーヴァンは肩の位置をずらすだけでかわした。
「お前まで不問にするとは言っていない。彼らは私の管轄外だが、お前は現段階ではまだ私の部下だからな」
「さいですか……」
 残念そうにイリアは行き場を失った手をぶらつかせ、肩を落とす。
「んで今度は何? 減俸? それとも前にも別件あるからそろそろやっぱ降格かな」
「いや、昇進だ」
「ああ、やっぱそうかぁ。この間のがさすがにまずったかなぁ……って、昇進!?」
「明日から中尉だそうだ」
 そうそっけなく告げるシーヴァンに、イリアは常にある騒々しさを消して絶句していた。
 だが、それが唐突に笑みへと変わり、不気味な笑い声が病室の中に響く。
「そうか! ついにお偉方も俺様の偉大さをわかってきたってことだよな。ったく、養成所出てから3年だぜ!? 普通は1年で無条件に中尉に昇進だってのに、なんで俺だけ2年過ぎても少尉のままだったんだよ!」
「昇進の機会ならいくらでもあったはずだというのに、それを自分から潰してきたのだと聞いたが」
 シーヴァンの冷静な突っ込みに返ってきたのは数秒の沈黙。だが、やはりそれ以上は続かなかった。
「お前はいいよな! 大総統閣下に目かけられててさ! つい2年前までは一般兵だったてのに、いつの間にか俺のこと追い抜きやがって」
「私は任務に忠実にあっただけだ。お前のように、悪行を重ねてきたわけでもない」
「かわいくねぇ……。でも、ま。これでまたお前とも階級並んだってことだ。よろしくな、シーヴァン=ノアー中尉」
「言い忘れていたが、私も明日から大尉だそうだ」
「マジかよ」
 楽しげにシーヴァンの細い肩に長い腕を絡ませていたイリアだが、その言葉に再びいやそうな顔をよみがえらせる。
「そういうわけだから、今はゆっくり休んでさっさと怪我を治せ」
 絡み付くイリアの腕を外し、シーヴァンは立ち上がった。
「もう帰るのか?」
「ああ。明日も仕事があるからな。報告書だけはきちんと提出しろ」
 そう伝えれば、返ってきたのは更にいやそうな顔だった。
 シーヴァンはかまわず扉の方に足を向けた。
「…シーヴァ」
「なんだ?くだらない用事なら聞くつもりは無い」
「お前、いっつもそれだな。まあ、一つ教えてくれよ。アラム先生…いや、アライム=マーナー殿はどうなるんだ?」
 一瞬イリアが口にした先生という聞きなれない呼び方に違和感を覚えたものの、なぜそうイリアが呼ぶのかすぐに気がついた。アラムは、魔法剣士隊の副隊長となる以前は直属の養成所で講師をしていたと聞いている。
 そして、2年前の暴走事件によって壊滅した魔法剣士隊の生き残りが中心となって再編されたのが、今ある第2隊だ。イリアもその一人だった。恐らくは養成所時代にアラムに教えを請うたのだろう。師の今後を案じるのはイリアにとっては自然の流れだ。
 だが。
「イリア、今はまだその名前を出すな。明日まではまだ、彼の人はリエレイ=リムーア嬢だからな」
「そっか」
 まだ、詳しいことはいえない。彼が今後どうなるのか。
 イリアは軽く頭を垂れ、視線を伏せた。
「では、私はこれで失礼する」
 今度こそ、病室から立ち去ろうとする。
「おう、またな」
 返ってきたのは、いつものイリアの返事だった。
 その声を耳に残して、シーヴァンは部屋を出た。
 
 病室を後にした直後、硬質な白い壁にはめ込まれた時計の電光がちょうど18時を示した。
 他の場所であればそろそろ仕事を終えた者達が夜の街へと繰り出し、にぎわう頃であるが、さすがに医療棟ではそんな賑わいとは縁が無い。特に平時に近い今は医療棟の病室は空きが目立ってひっそりとしている。
 こんな状況であるからあの騒々しいイリアが、誰かをあつめて博打を打ちたがるのも無理は無い。かといってそれをシーヴァンが黙認しなければいけない理由も無いが。
 いずれきちんと何かしらの処置をしておかなければ。
 だが、それもひとまずは明日以降のことだろう。今は自室に戻ってゆっくり休みたかった。
 さすがにアラムとやりあい、その後丸1日見張り続けるというのは、シーヴァンにも疲れを覚えさせた。それに、明日も仕事があるという。疲労を残しておくわけには行かない。
 そう思いつつ、王都の円周上を運行するモノレールの発着場へと向かう。居住区と真逆にある医療棟からでは、モノレールで移動した方が早い。
 少し歩けば、すぐ医療棟の出入り口に直結したモノレールの発着場にたどりつく。そこで、シーヴァンは意外な姿を発見した。
 ちょうど今到着したばかりのモノレールから、最上層でセナの補佐をしているはずの白い制服姿が降り立ち、シーヴァンの方へ向かってきていた。彼、ミレニアは俯いたままで、シーヴァンには気づかないようだった。
 シーヴァンは、声をかけるべきか一瞬迷った。ミレニアは、階級上でも仕事上でもシーヴァンの上官に当たる。ただ、年が同じということもあって上下関係にとらわれない付き合いはあった。ミレニア自身まだ若く、周囲に気の置けない友人がいないという事情もあるのだろうし、シーヴァン自身もミレニアの能力には一目をおいていた。
 だからというわけではないが、結局、シーヴァンは声をかけていた。先ほど去り際で何か問いかけたそうな彼が少し気になったためでもあった。
「ミレニア」
 呼びかけると、彼は一瞬辺りに視線をさまよわせた。すぐにシーヴァンの姿を見つけるが、その表情には驚きと疑問が浮かんでいた。
「シーヴァ、なんでこんなところに? もしかして、先の戦闘でどこか怪我でも?」
「いや、知り合いが傷を負って入院中だからな」
 シーヴァンは即座に否定し、簡潔に事情を説明する。ふと思いついた可能性に心配顔になっていたミレニアが納得し、傷を負ったという者に対して純粋に労わりを向けた。まさに、ミレニアらしい。
「ところで、ミレニアこそなぜここにいる?」
 尋ねた問いに返ってきたのは、歯切れの悪い苦笑。
「ちょっと小用があってね」
 こんなとき、イリアなら根掘り葉掘り聞こうとするだろうが、今はいない。イリアではないシーヴァンは、あっさりと応じただけでそれ以上は尋ねなかった。
 その代わり、先ほどから気になったっていたことを尋ねた。
「そういえば、先ほど別れ際に何か言いかけていたな。何だ?」
 一瞬、ミレニアは何のことか分からないようにきょとんとした。ややあって、ああと気づく。
「あれは、気にしないでくれ。たいしたことじゃないから」
 だが、その直後にまた別のことが思い当たったのか、言葉を切る。
「シーヴァは、これから帰るのか?」
「そうだが?」
 いったいなんだというのか。ミレニアが何を知りたがっているのか理解できず、シーヴァンは普段は乏しい表情を珍しく険しくしていた。
「じゃあ、一緒に行ってもいいだろうか? 少し話があるんだ」
「構わないが、お前も何か用事があるんじゃないのか?」
「ああ、私のほうは大した用じゃないから。明日でも構わないし」