小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

SEAVAN-シーヴァン編【未完】

INDEX|15ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

「イリア=ディクスン少尉ですが。彼が何か?」
 セナは驚いたようにシーヴァンを振り返った。
「まだ少尉か。あれと対峙して生き残るほどならとうに大尉ぐらいになっていてもおかしくないだろうに」
「能力はあるのですが、素行に問題があるようですので」
「なるほど。だが、陰隊に所属しているのならば多少の問題があるほうがおもしろい。その者に明日から中尉だと伝えておけ。それから、お前も大尉に昇進だ」
 楽しげに、セナはシーヴァンの肩を叩く。
「今日はもう休むといい。リムーアから戻って、疲れているだろう」
 その言葉に敬礼で返すと、陰気な階段も終わってホールへと戻ってくる。ホールはすでに自然の明るい光に満ちていた。
 二枚の大扉を過ぎ、再び砂漠特有の澄み切った青い空の下に出る。その背後で、扉は軋みながら閉ざされた。
 扉の左右が重なる一瞬、塔全体が薄い幕のようなもので覆われたような気がした。新たな主を得て、塔が再び機能し始めたのだろう。これでアラムはセナの許しがなければ二度と塔の外へ出ることはできなくなった。
「セナ様、お迎えに上がりました」
 明朗な声が、自分たちの背に投げかけられた。塔の外とはいえ陰気な空間であることに代わりはないというのに、その雰囲気を吹き飛ばすようなすがすがしさだった。
 振り返る視界に、緩やかな風にはためく制服の白が入ってくる。そこに立っていたのは、よく見知った少年だった。
 真っ白な制服に身を包むのは、シーヴァンの所属する第2隊と対を成す、大総統直属精鋭第1隊。通称陽(ひ)隊と呼ばれる部隊の証である。自分と同じ歳ながら白を纏う彼は階級こそ違うものの、役割も自分と同じだった。自分が大総統第2補佐官だとすれば、彼がその第1補佐官だった。
 色素の薄い茶色の髪を風に揺らしながら彼は敬礼する。その奥には来たときとは違う車がセナを迎える。
「ミレニアか。ごくろう」
 労いを掛けて、セナはミレニアと呼ばれた少年の傍らを過ぎ、車に乗り込む。それに続いてミレニアが乗り込む際、一度こちらに視線を向けた。今まであったすがすがしさが、そのときだけは消えて迷いが生まれていた。
「ノアー中尉……」
 何か言いかけた彼は一瞬視線をさまよわせた後、すぐになんでもないと言って車の中に消えた。
 何なのか確かめる前に車は走り出し、車は王宮へ向けて去っていく。それを見送りながら、ミレニアが躊躇した言葉の先を考えた。だが、そのときのシーヴァンにはミレニアが何を気に掛けたのか考えたところで答えは出ず、すぐに忘れることにする。
 それから彼は、軍人の居住区やその他の施設が集合する第三層へと足を向けた。
 
 
 再び昇降機の白いカプセルに乗り込む。数秒で第3層についたことを示すランプが点灯し、シーヴァンは再び無機質で囲まれた空間に下りた。
 ただし、真っ直ぐ自室のある居住区へ向かったわけではない。無機質さは他の場所とは変わらないものの、今シーヴァンがいる場所は白い壁と消毒のにおいが辺りを満たしていた。
 居住区とは正反対の場所に位置する医療棟である。普段なら特に目立った怪我も病気も経験したことの無いシーヴァンにはあまり縁のない場所だが、今ここにはイリアがいる。
 見舞いというわけでもなく、決して訪れなければいけない場所でもないために最初は真っ直ぐ帰宅するつもりだった。そうならなかった理由は、ただ単に暇だったからである。それに、明日から中尉に昇進することを告げる必要もなくはなかった。
 ナースセンターでイリアの病室を訪ね、604と書かれたプレートを探す。
 平時の軍の病棟というものはそれほど多くの患者が入っているわけではなく、過ぎていく部屋はほとんどが空き部屋だ。これが戦時ともなれば個々の部屋が傷病兵であふれかえり、最悪の状況では廊下にまで人が横たわる。シーヴァンはそんな状況を一度も見たことはないが、今後も有り得ないとは限らない。もしそんな状況になったとしたら、廊下ではなくベッドにありつきたいものだ。
 そんなことを考えていると、604の病室が見つかる。
 帝都に着く前にイリアの意識は戻っていたようだが、傷は相当深かった。意識が戻ったとしても絶対安静なのは間違いないだろう。もしかしたら面会謝絶かも知れない。そう覚悟してきたのに、部屋の前にたどり着いたシーヴァンは、むしろ来るべきではなかったと悔いた。
 周囲の部屋はがらんどう。両脇も向かいも誰もいない。そしてイリアの部屋は個室である。
 にもかかわらず、604と書かれた部屋の中からはにぎやかなわめき声が聞こえてくる。そしてその一つは確実に、この病室の主の声だった。
 だが、ここまで来て引き返すというのも無益だ。
 シーヴァンは扉の脇に設置されたスロットに、IDカードを滑らせた。
「うっしゃ!スリーカード!」
 入ってすぐ耳に飛び込んできたのは、紛れもなくイリアの声。つい1日前までは血まみれで、半ば死に掛けていた。今だって体中を包帯でぐるぐる巻きにされているというのに、その姿のどこからそんな声が出てくるのかというほど明るく弾んだ声である。むしろ、普段任務で見かけるよりも生き生きとしている。
 そして、彼の周りにいた3人の男たち。どれもイリアほどではないが重傷患者のはずであるというのに、手に数枚ずつのカードを持ち、イリアと共に和気藹々と騒いでいた。
「残念でしたねディクスン少尉! 俺はフルハウスだっ!」
 一人がイリアを見て勝ち誇ったように手札を広げてみせる。しかしそれに続いて他の男がカードを投げ出す。
「ふっ、甘いっすよ。俺はフォーカード」
 そして最後の男が不気味なほどの笑みをたたえてカードをさらけ出した。
「それこそ甘いってもんだぜ! 見よ! これがロイヤルストレートフラッシュだぁっ!! 」
「なにぃ〜〜っ!!」
 他の人間が一斉に奇声を上げて身を乗り出し、そしてカードの役を確かめて一斉にくずおれた。
「畜生、またビリかよ〜」
 大きなため息が零れたのは、包帯だらけの腕で顔を覆い、天を仰ぐイリアだった。その目の前に、最強の役をそろえた男が満面の笑みで手をひらつかせる。
 畜生とぼやく声は小さく、懐から何かがサイドボードの上に投げ出された。紙幣である。他の二人も悔しげにそれに続ける。
 シーヴァンは脳内を検索した。そして瞬時に軍規に関わる1ページに、該当する項目を見つける。
「賭け事は一切禁止と、軍規に記されているはずだが」
「って、うわシーヴァ!?」
「ひ、ひえ、大総統補佐官殿!?」
 一斉にその場が慌しくなった。賭けポーカーに興じていた男達が慌ててその証拠を隠そうとする。その中で、ちゃっかりとイリアが負けた分の金を回収していた。むしろ、それ以上を嬉々としてかき集めていたようにも見えたが。
 ともかく、ここをどうにかしないとイリアとも何も話せない。
「イリアに話がある。今のことは不問にしておくから、他の者達は席を外して欲しい」
 カードと金をかき集めていた男たちは一斉に敬礼した。カードを片付けるのもそこそこに、それでも金だけは確保してそそくさと退室していく。
 それらを見送って、イリアは大きく肩を上下させた。
「いや、お前が物分りのいい奴でよかったぜシーヴァ」