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SEAVAN-シーヴァン編【未完】

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 結局一度も顔を上げることの無いままだったアラムも、そこでようやく面を上げた。
 広く取られた部屋の中央に、一人の男がいた。それはシーヴァンにとってはよく知る男だった。白い白衣を纏い、背中を丸くゆがめた立ち姿で、上目遣いに笑みを浮かべこちらを見上げてくる白髪の男。名を、Dr.スウィンと言う。
 アラムが入り口の前で立ち止まる。顔を合わせた彼とスウィンの表情は対照的だった。
「アラム、ライトの下に立て」
 セナが天井を示し、アラムを呼んだ。この強い光の光源である無影灯がそこには設置されていた。だが、アラムは動こうとしない。
「何をさせるつもりだ、この男に」
 張り詰めた声の響きに、アラムの緊張感が読み取れた。
「アラム、お前に反抗の余地はない。シーヴァ」
 セナの命令に、シーヴァンがアラムを突き飛ばす。アラムにそれ以上選択の余地はなかった。唯一の出口にはシーヴァンが立ち、セリヌンをいつでも使えるように構える。
 やがて渋々という様子で彼はライトの真下の位置に立った。
 セナがスウィンに指示を出す。すると天井のライトが更に光量を増した。増した光は天井から床を照らし出し、床はその光を部屋の中を満たすシャワーのように反射させる。幾筋もの光の線が無作為に部屋中を飛び交う。いや、無作為ではない。その線の一つ一つは意味を持って動いていた。
 光の線はアラムを囲むようにして飛び交っていた。そしてその一つ一つの光が細かい文字を描いていく。
 魔法陣だ。そうと分かったときには、アラムはもはや体を折り曲げて苦痛にうめいていた。彼の周囲で紫の閃光がはじけ、光の糸とぶつかる。
 紫電は中央を駆け巡り、シーヴァンの髪も焦がした。
「これは、魔力の流れを強制的に閉ざすための魔法陣なんだそうだ」
 苦痛にうめくアラムを、セナは冷ややかに見下ろす。
「これをすることで、おまえは一時的に一切の魔力を失う。時を止める魔法と言うのは、なんでも基の魔力源を絶たなければ解除は難しいらしいな」
 苦痛によって脂汗がにじむアラムの顔に、一瞬表情が消える。顔を上げようとしたが、体を苛む苦痛と火花を散らす魔力衝突が彼の動きを阻んだ。火花が、アラムの着ている喪服を焦がす。
「やめてくれ、セナ…っ」
 喘ぎの合間に微かにこぼれる声が、セナに縋る。しかしセナはアラムの訴えを無視し続けた。
 次第に部屋の中に響く苦痛のあえぎと、弾ける火花が増していく。そして、その中に突然何かが砕ける音が混じった。
 アラムがひざをついた。それと同時に光の糸がアラムを解放する。起き上がる気力もないのか床に横たわり、彼は目線だけでセナとスウィンを睨みつける。
 しかしスウィンの手は、流れるようにこのデータを記入していくだけで、アラムそのものには科学者的な興味以外の感情は一切抱いてはいなかった。
「さすがリム=イウルですな。なかなか抵抗が崩れんので、思いのほか時間がかかった」
「そうでなくてはリム=イウルとしての価値は無いだろう。シーヴァ」
 そう、シーヴァンを呼びつけたセナの目には、スウィンとは別の意味の好奇心と悦びが踊っていた。
「セリヌンでアラムを斬れ」
 やれというセナの命令にシーヴァンが逆らう理由は無い。セリヌンを抜き、彼はその全ての魔法を無効化させる力を発動させる。
 そして身動きのできないアラムに向けて、無造作に一太刀を振り下ろした。
 青白い残像を残して、セリヌンはアラムの体を貫いた。
 ぴしっと、何かにひびが入るような音が聞こえた。セリヌンが突き刺さった基から、アラムの体の表面に亀裂のような閃光が走る。
「あ……うぁ――――っ」
 絶叫が部屋中に響いた。
 何かが砕け散っていく音が断続的にアラムの表面に走り、彼の表面を覆っていたものが弾け飛ぶ。
 地面から空気の圧が吹き上げ、一同の体を襲った。
 とっさに、何も考えないままセリヌンを盾にした。圧がセリヌンを避けて流れていく。アラムの魔法として形をなさない魔力が、一斉に放出されていたのだ。
「やはりな」
 やがて圧が収束始める中、中央でうずくまるアラムにセナが歩み寄る。彼女の顔にはこの上ない悦びが見えていた。
「ノア=シーヴァニスだと言うのに、性別が決まる前に成長が止まるなど、おかしいと思っていたのだ。いったいいつからそうしていた? なんのために? それをすることでお前にメリットなんてないだろう? 女になって軍に捨てられることを恐れるのならばまだしも、男になるのなら」
 既に原型を留めていない喪服の上から、セナが着ていた上着を着せ掛ける。それまではノア<無性体>であったアラムの体が、目にみえて分かるほどに変化を遂げていた。
 肩幅が広がり、体から丸みが消えた。今までは性の区別がつかない14、5ほどの外見だったのに、今では細身ではあるが適度に鍛えられた二十歳すぎの男性の身体に代わっている。身長も先ほどまでは背の高いセナの肩に届くか届かないかだったのに、おそらく今ではセナと並ぶとちょうど釣り合いが取れるくらいだろう。
「どうしてお前は俺を放っておいてくれないんだ…」
 投げやりに言う声も、今までよりずっと低い。
「無理に成長を止めても、幼い体はお前の持つ魔力に耐えられない。だからこそ2年前の事件も起こった。それ以外にもしょっちゅう熱を出して寝込んでいたと聞いていたが?」
「答えになっていない」
 セナが、再びそっと背の高くなったアラムに手を伸ばし、頬に指先を滑らせた。今度は、アラムも拒まなかった。
「私はお前が心配なんだよ、分かってくれるだろう? アラム」
 幼い子供をあやすような、優しさ。
「でも、だからって…」
 滑らせた指先を、セナはすいと引く。先ほどとは打って変わって表情に優しさは無く、表に現れたのは軍人としての厳しさのみ。
「ともかく今は休め。明日には一仕事してもらわなければならないからな。もし拒むつもりなら、私にも考えがある」
「どういうことだ?」
 セナが薄い紅を載せた口元を吊り上げた。
「エレナは私の手元にある」
 アラムの表情が一変した。
 それを目の端におさめて、セナは踵を返す。今にも笑い出すのではないかと思えるような彼女のあとに、シーヴァンが続く。
「セナ!」
 アラムが絶叫した。だが、まだ回復しきっていない体は起き上がろうとして途中でよろめき、床に倒れこむ。
 それと共に最上階の扉は閉じた。アラムの声も姿も再び闇と化した螺旋階段の中には届かなくなった。
 
 
 今現在あるのは、長い薄闇の螺旋階段に二つ足音が反響していく音だけだった。閉ざされた最上階からは、もうだいぶ前から何の音も聞こえなくなっている。
 アラムはたしかにかなり体力、気力共に消耗していたが、それでもおとなしくしているとは思いにくい。もしかしたら残ったスウィンがどうにかしたのかもしれない。眠らせたか、それとも気絶でもさせたのか。どっちにしろ、今の彼には必要なことだろう。セナが言ったように、明日にはひとつ仕事が待っている。休息はとったほうがいい。
「そういえばシーヴァ、例の突入任務で、一人だけ生き残った者がいたそうだな。その者の名はなんと言う?」
 唐突に振られた問い。シーヴァンは澱みなく答えた。