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SEAVAN-シーヴァン編【未完】

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 意味深な笑みだけを残して、セナは歩き始める。あとは後ろを振り返ろうとしない彼女に、アラムはついていくしかない。ようやく一定の距離をおいて彼は歩き始め、そのすぐ後にシーヴァンも続いた。
 向かった先は、帝都の最上層から最下層までを貫く昇降機。白いカプセルの中に入ると、ものの数秒で最上層の王宮へたどり着く。更にその先へ一歩足を踏み出せば、そこは先ほどまでいた第3層と違って、緑と水のあふれる別世界になっていた。
 砂漠の外気から完全に切り離され、自然の風を模した一定しない流れを持ち、適度な気候を保つように整えられた空調。更に、緻密に計算された気候は、建物の中だと言うのに時折雨を降らせることもある。そのため、一度帝都の中に入ってしまえば、ここが砂漠の中にあるということは誰も気付かない。
 実際そのときも、つい先日リムーアの拠点で感じた風と寸分も違わない風が、車に乗りかえるまでの僅かな間にシーヴァン達の頬を撫で、髪や服の裾をさらっていった。
 その風に、アラムがふと顔を上げた。だがすぐに表情は強張り、さっさと車の中に入ろうとする。
 シーヴァンも続いて乗り込むが、アラムの顔は強張ったままだった。
 一体なぜそのような顔をするのか理解できないまま、車は発進する。王宮の奥。普段ならば誰も近づかないような場所へ向けて。
 
 フェルディアス帝国王宮は、基調を白として、各所に華やかな赤や金を配した建物群が整然と並んでいる。中央には最も大きな正殿があり、幅広の道が昇降機の出口から正殿への門まで真っ直ぐに伸びていた。
 だが今車が走るのは、その道から大きく西に外れた細い道だった。王宮の幾重にも重なる建物群に隠された、西の端へと向かっている。
 次第に周囲は木々に囲まれていき、ドーム越しの光も車内には届かなくなる。砂漠の中の別世界に、また更に別世界が現れたようにも思えた。
 やがて車は停止した。
 砂漠では見られない暗灰色の石壁と、その壁を這うように生い茂る蔦。木々の間に突如として現れたのは、晴れやかとは正反対の雰囲気を纏う塔だった。
「こちらへ、リエレイ=リムーア嬢」
 車から降り立ったアラムを、セナが塔の入り口へと招く。
 古びた塔の前に進むと、煤けた木戸が重たく軋んだ音をたてて開かれていく。長い間閉じ込められていたかび臭さと淀んだ空気が、シーヴァンを含めた3人の前に解き放たれた。
 3人は中へと足を進めた。扉をくぐるとそこは広いホールになっていて、奥には上に向かう螺旋状の階段と、中庭に出るらしい扉が見える。そのホールでセナはついてきた他の護衛を帰し、扉のカギを下ろさせた。そこでようやく3人きりとなった。
 アラムはベールの下で思いにふけるように目を閉じていた。数瞬の間、彼の周りになにか侵しがたい空気が流れていく。
 だが、伝統を感じさせるといえば聞こえはいいが、分厚く重い扉も石造りの塔自体も、時代錯誤で全く実用的ではないとしか言いようがない。これがアラムに一体何を感じさせると言うのか、シーヴァンには理解できなかった。
「懐かしいか、アラム」
 セナが、彼をそう呼んだ。
 リエレイではなく、アライム=マーナーでもなく、彼の愛称で。
 アラムは今まで顔を覆っていたヴェールを取り去り、再び目を開けた。その目の中には、リムーアが爆破された直後に見せたものと同じ激しさがあった。
「ここは先代のリム=イウルだったバーガル老師が晩年を過ごされた塔。お前もかつてここで修行していたそうだな。ここなら、お前とゆっくり話ができると思って、招いたが……」
「セナ」
 大総統と言う国王に次ぐ地位にあるセナを、アラムはそう呼び捨てにした。彼自身シーヴァニスであり、かつては被支配民だったにも関わらず、国の事実上の最高権力者を呼び捨てにするなど普通ならば決して許されることではない。にもかかわらず、セナはただ薄く笑みを浮かべただけだった。
「俺をここに連れてきたのは、俺を閉じ込めるつもりだからだろう。俺を留め置くことに、ここ以上に適する場所なんてないだろうからな」
「そんなに、邪推しなくてもいいだろう。私はただ…」
 そっとセナがアラムの頬に触れようとした。直後、パン、高い音が塔の中に響いた。
「触らないでくれ。お前がセナじゃなかったら、俺はとっくにお前を殺してる」
 視線を外し、アラムは肩を震わせた。行き場のない怒りを必死でこらえる拳には、既に血の気はなく、白かった。
 振り払われた手を見つめ、セナは小さくため息をついた。
「怒るな、アラム。リムーアのことは当然のことをしたまでだ。あれは私からお前を奪った。その報いは受けなければならないだろう」
「俺を奪った報いだって!? そんなもののためにお前はあの街を消したって言うのか!? ふざけるな!! あそこには何千人っていう人間がいたのに、子供も、老人も、病人やけが人だってたくさんいたんだぞ!!」
「だが、彼らがお前に何かしてくれたか? むしろお前の存在を知ってお前を拒絶しただけだろう」
 アラムの言葉の先が消えた。今はもう、青ざめた顔がセナを見つめるだけ。
「あんなやつらのことは忘れろ。所詮、やつらは偽善者に過ぎなかったということだ。そういった人間が一番やっかいだ。何もできないくせに吼えるときはうるさいほど吼える。そういう無能なやつらはさっさと始末してしまった方が後々のためでもあるとは思わないか?」
 アラムの返答はなかった。
 再び顔を伏せ、肩を落とす。先ほどまでは怒りに震えていたそこには、もう何の意気も見えなかった。
 セナは踵を返した。
「ついてくるといい。お前に会わせなければならない者がいる」
 奥の螺旋階段へと、セナの足音が響く。上へ上がる階段に足をかけたところで、それはアラムを振り返った。やがて彼は疲れたような重い足取りでそれに従い、シーヴァンもそれに続いた。
 螺旋階段はかなりの長さを持っていた。時折ろうそくの薄暗い光が足元を照らしているが、他の光は一切入らない。そんな中でもセナは足元を気にすることも無く真っ直ぐ上へと向かっていく。最上階まで行くらしく、途中の扉には見向きもしない。
 アラムも危なげの無い足取りで上へと進んでいた。が、その後ろ姿は前を行くセナとは比べ物にならないほど小さく、明かりの届かない暗がりに今にも消えてしまいそうだった。
 セナに指摘されたことで、リムーアでのことを思い出したのかもしれない。シーヴァンには正確にイリアたちが突入した時の状況を思い描くことはできなかったが、ずっと俯いたままの彼の様子を見ていれば、大体は推察できなくもなかった。要するに、セナが指摘したとおりのことが、リムーアの中で起きたのだろうと。
 しばらくまた階段を上ると、やがて最上階の扉が現れる。それはやはり他の扉と同じように重く軋んだ音を立てて開かれた。
 今まで僅かなろうそくの光しかなかった中に、辺り全てを照らし出す強い光が割って入る。一瞬辺りは真っ白になった。強い光に目が慣れず、何も見えない。
「ようこそ、アライム=マーナー殿」
 突如光の向こうから、この明るさに似合わない粘ついた印象の声が、耳の中に忍び込んできた。