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SEAVAN-シーヴァン編【未完】

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章1 2


 
 
 シーヴァンは窓の外に視線を落とした。
 眼下には赤茶けた巨大な岩壁と数多くの谷が乱立している。砂漠に唯一流れている涸れ川と、地殻変動によって形成された独特の地形だ。この辺りはこういった地形が多くあるが、もっと南に出ると完全に砂ばかりの世界になる。
 ここは世界にも例を見ない広大な砂漠。
 この大陸の3分の2を占めるフェルディアス帝国は、1万メートルを超える世界一の大山脈によって東西を分断されている。
 山脈の西は新たな海とよばれる大新洋に面し、肥沃な緑の大地が国の食糧生産を支える穀倉地帯を作っていた。都市も多く存在し、リムーアも南西部にある1都市に名を連ねていた。
 だが東側は、大陸の中央部から南東に延々と不毛の大地が広がっている。今いる地点も、そんな砂漠のどこかだ。
 東端の太神洋に接する海岸部までいけば多少の緑は残っているが、それも西側とは比べ物にならないほど微々たるものだ。都市もレンバードという大規模な商業都市があるだけ。
 だがこの東側の大砂漠こそ、世界人口の5分の1に及ぶ人口を持っている大地だということは、誰もが知るところだった。
 シーヴァン達が目指す大砂漠の北側は、大山脈から分岐した別の山脈を背にする高地だ。標高は3000メートルを越え、雨が降ることは滅多になく、周囲は岩だらけの荒野に囲まれた場所。標高が高いために日中の温度は砂漠のほかの場所よりは比較的低いものの、夜は極寒の大地となる。普通ならば誰もそんな場所に住もうなどと考えるはずもないが、実はその場所こそが世界最大の都市、帝都フェルディエンが存在する場所だった。
 なぜ、そんな場所に都が存在できるのか。それは実際に見たほうが早い。
 ちょうど大山脈帯を超えて丸半日。今この飛空挺はそろそろ帝都が見えてくるだろうというところまできていた。
 地平線の間際に、それは現れる。最初は黒い点にしか見えないものだ。乱立する岩壁の合間に、ともすれば周囲の岩壁にまぎれて遠くからでは気付かないのではないかと思うようなもの。
 だが、次第に近づいてくると、僅かずつだがそれがなんであるかわかるようになる。それは半径10キロ近くにも及ぶ巨大な円筒形の鉄の塊だった。初めてその存在を知るものならば、これが一体何のためにこんな場所に置かれているのだろうと疑問に思うことだろう。まさかこんなものの中に人間が数百万の単位で生活しているなどだれも思わない。
 そう、これがこのフェルディアス帝国帝都フェルディエンなのである。
「またこの箱の中か…」
 アラムが、近づいてくる帝都の姿を見て呟いた。嘲るような含みのある口調だった。表情は、こちらからは見えない。笑っているのかそれとも泣いているのか。彼はシーヴァンに襲い掛かってきた時からずっと、窓の外以外を見ようとはしなかった。
「もうしばらくで到着いたします。そろそろ、ヴェールを被っていただきますか?リエレイ=リムーア殿」
 するとアラムが微かに肩を震わせた。
「そうだったな。俺はまだリエレイなんだった…」
 掠れた声で呟くと、彼は緩慢な動作でヴェールを被る。そうするともはや、誰も彼がアライム=マーナーであるとは気付かない。
 やがて飛空挺が着陸態勢に入る。鉄塊の側面に開いた滑走路の中に、機体が吸い込まれていく様子が、小さな窓の向こうに見えた。
 やがて窓の外の景色は砂漠の赤茶けた大地から、暗灰色に統一された無機質な壁に代わる。続く僅かな衝撃の後、飛空挺は徐々に速度を落とし、止まった。
 都でありながら巨大な軍事要塞でもある帝都フェルディエンは、基本的には華やかさよりも合理性や堅牢さが目立つ。とくに4層構造になっている円筒内部の、半地下となったここ第3層は、要塞としての要となる軍事機能が集められた層だ。
 また、ここには基本的にシーヴァンの民から選りすぐられた者達しかいない。身体能力が高く、強い魔力も持ち、それ故に被支配階級にある彼らが訓練を受け、国を守るために働く場だ。シーヴァニス以外の人間も存在するが、それは上層部の一握りでしかない。
 だがシーヴァンは、ゆっくりと誘導路を進むために僅かずつ視点が変わっていく中で、めずらしく華やかな一角を見つけた。
 やがて飛空艇が完全に止まり、階段が連結される。先ほど目覚めたばかりで未だ重傷と言えるイリアは早々に降ろして医務室へ。その後少し置いて、出迎えの準備が整えられる。
 先にアラム―現在は偽のリエレイを演じている―が外へと踏み出した。シーヴァンはその後に続こうとしたが、進もうとした先に未だ彼の背中があり、足を止める。ちょうど階段の正面に、先ほど見かけたささやかな華やかさが「リエレイ=リムーア」を待ち受けていた。
 階段の下にひかれた赤い絨毯。それから出迎えに立つ者たちの両側に立てられた、赤いバラを模した国旗。居並ぶ面々はほとんどが軍人で、大概が白い制服を纏っていた。
 アラムはそれらの中央に立つ人物を、じっと見つめていた。
 それはまさしく絶世の美女と形容するにふさわしい女性だった。涼やかなのにどこか色香を漂わせる眉目と、薄く紅を乗せた形の良い唇。その白い肌の上を流れ落ちる黒髪は艶やかで、彼女の美しさと聡明さを引き立たせる。装いはとりわけ飾り立てているわけでも、まして多くの女性が好むドレスでもなく、他の者達が着ている制服に近いが、彼女の完璧に整った肉体美を損ねることはない。むしろ豊かな胸や引き締まった細い腰、それから真っ直ぐに伸びた長い脚の線に、制服の白がよく映える。
「セナ…」
 他の者には聞き取れない微かな声で、アラムはその人物の名を呼んだ。その声には僅かに怒気が篭っていた。
 しかし怒りを向けられた本人が気付くはずもなく、いやもしかしたなら気付いていたのかもしれないが、視線の先の女性はリエレイに扮したアラムに向かって微笑んだ。その美貌をここぞとばかりに強調する、なまめかしい笑みで。
 アラムがようやく階段の一段目に足をかけた。それからすぐ、規則正しい足音が辺りに響く。
 シーヴァンもその後に続き、見慣れた格納庫の床に久しぶりに足を下ろした。
「ようこそ、リエレイ=リムーア嬢」
 先ほどの女性がアラムに手を差し伸べる。その瞬間、数少ない出迎えの中からどよめきが上がった。アラムは握手を求める相手の手を取ろうとはしなかった。
「握手はお嫌いですか?」
「いいえ。私は貴方のような方の手を取る立場にはありませんから」
 物言いは丁寧でありながら、やはりその口調は硬い。周りの者達は一様に眉をひそめた。
 だが、アラムの本来なら非礼に当たる物言いに対して相手の女性は顔色一つ変えなかった。むしろ、その皮肉すら楽しんでいるかのように頬を緩める。
「こちらへ。貴方は私の大切なお客人なのですから」
「一つお聞きしてよろしいですか?セナ=ギリウス大総統閣下」
 アラムを誘い、踵を返すその女性の背後に、アラムはそう呼びかけた。
 冷ややかな妖艶な笑みが再び、アラムへと向けられた。
「私をこれからどうなさるおつもりです?」
 その問いに、セナは答えなかった。