SEAVAN-シーヴァン編【未完】
声は涙と絶望によって震えていた。シーヴァンを見下ろす紫の双眸も暗く沈んでいた。だが、重なり合う視線に揺らぎはなく、まるで首にあてがわれたナイフのように、今にもシーヴァンを貫こうとしていた。
普通の人間ならば真っ向からアラムの視線を受け止めることなど出来なかっただろう。恐れ戦いて圧倒されていただろう。だがシーヴァンは、逆にその視線をまっすぐ見返した。
揺れることのないシーヴァンの眼に、アラムの方が揺さぶられる。
「降りて、どうなさるおつもりです?生存者でも探すのですか?」
「お前には関係ない!」
「無駄ですよ。生き残ったものも完全に始末するように通達していますから。それに、降りることも不可能です」
それは一瞬だった。アラムが会話に気を取られた隙に手にしていたナイフを叩き落し、彼の体を蹴り上げる。床に体が激突する間際、受身をとったアラムの身体能力は流石と言えよう。更に彼がその起き上がりざまに手の中に魔力を込めようとした。
しかし、そこで彼は動きを止めた。手の中に流し込んだ魔力も、空気の中に解けるように霧散する。シーヴァンが抜き放ったセリヌンが、アラムの喉元に突きつけられていた。
「あなたは最強の魔法剣士だった。でも、それは魔法が使える状況にあってのことだ。ここも2年前貴方が監禁された部屋と同じで、魔力を吸収するようにできているんですよ。つまりあなたは今ただの戦士でしかない。確かに戦士としての腕も一流のものだが、それだけでは私よりも劣る。それは貴方が一番よく分かっていると思っていましたが」
分かりきった敗北に、アラムの腕は力なく降ろされた。乱れた黒いドレスの裾が、床に広がる。
床についた両手の甲に、透明な水滴が滴り落ちた。
「…っ、ちくしょぉっ!!」
彼の叫び声が部屋の中に広がった。
シーヴァンはセリヌンを鞘におさめ、震えるアラムを冷ややかに見下ろして、息をついた。
これでシーヴァンの任務はようやく終わる。もう、彼には何をする気力もないに違いない。あとは彼の身柄を帝都で引き渡すだけだ。
小さな窓の外を見下ろす。外には永久に解けない氷に包まれた、1万メートル級の山々が連なる中央山脈が迫っていた。これを超えればこの先に広がるのは広大な岩砂漠。その中に、巨大な要塞とも言える帝都が現れるはずだった。
作品名:SEAVAN-シーヴァン編【未完】 作家名:日々夜