Over the rainbow
直径約百キロの小さなこの星だが、この道の最速レーンでも、一周すると最短で五時間余りかかる。市川翔太は或る日の仕事帰りに、左端の紫色のハイスピードレーンの上で二時間程、眠ってしまったことがある。
この星の上を半周近く、百二十キロも移動してしまったのだからたまらない。そのときは、市川の嫌いな光速エアバスで帰宅することになってしまった。
昨日の朝も彼は九時に自宅を出た。九時二十分ころ、透明な仕切り越しに、反対方向へ行く或る娘とすれ違った。速度差百二十キロだから見過ごしてしまうことが多いのだが、昨日の朝はほんの一瞬、そのきれいな顔を認識することができた。隣に男が居たような気もするが、はっきりとは憶えていない。
今朝は市川の勤め先に、新入研究員が配属されるという連絡がきた。奈良井柚里。二十二歳。宇宙大学を、先日卒業したばかりだ。ミス宇宙大だったその美しい柚里が、宇宙研究所の技師、市川の助手として今日から配属されるという話だった。
作品名:Over the rainbow 作家名:マナーモード