夏の欠片
「シンちゃん引っ越すでしょ〜。だからまた帰ってきたときにね!3人で見よう!」
ケータはすこし考え、
「お、いいなそれ!シンタどうだ?」
ケイタとちとせが目を輝かせてこちらを見ている。
ああ、暑中見舞いのタイムカプセルはここに繋がるのかと内心納得していた。
それにこんなキラキラした顔を見ては断るにも断れなかった。
といっても断る理由なんてなかった。
それにどうやら引越しの話を二人は知っているらしかった。
それを思って言ってくれているのだから
「いいよ!」
快く承諾した。
「決まりだな」
ケータは綺麗な白い歯見せてニッと笑った。
――数時間後
「よし、この缶に宝物とかをいれるんだ」
缶は長方形でクッキーらしきお菓子を詰めていたもののようだった。
欧州の方の子供がクッキーを頬張り笑っている絵だった。
慎太はワクワクしていた。
ちとせもはしゃいでいた。
「私、くまのお人形さん!」
「そんなでけえの入んねえよ」
そうケータに言われちとせは泣きそうな顔をしていた。
結局、いくつかビー玉を入れていた。
女の子らしいなと慎太は思った。
「シンタは?」
「う〜ん、ビックリマンチョコシール」
「かぁ!夢がねえなあ!」
ケータは手のひらで自分のこめかみを抑える真似をした。
別に、夢がないのは承知の上だった。
しかし、これしか思いつかなかった。
「ケータは?」
「俺はこれだ!」
おもむろに短パンのポケットから紙切れを取り出した。
「何それ」
ちとせと慎太は声を合わせた。
四つ折りの何の変哲もない紙。
よく見ると何か書かれている。色が見える。クレヨンか何かだろうか。
するとケータはその動きに気付いたのか
「ひみつだ。はたちになってからみるんだよ!」
と、自慢げに言い、紙をヒョイと自分の後ろに隠した。
「これはかけがえのないたからものなんだ。おかねじゃかえないものだぞ。もしかうなら10おくいじょうはつく。」
そういわれるとすごく見たくなった。
するとちとせが
「けちー」
それに便乗し慎太も
「なんだよー」
そこでバツが悪くなったケータは話を逸らした。
だがそれ以上は慎太も千歳も何も言わなかった。
「うめるとこはあそこだ!」
ケータは指をさした。
――山だった。
しかしその山は昔よく遊んだ、山だった。
名前は知らなかった。
しかしその樹に落ちる夕日をいつも見てきれいだなと思っていたので夕日山と勝手に名づけた。
そして頂上には太く大きい立派な樹があった。カラマツの樹だ。
樹齢100年は超えているそうだが、真偽はわからない。
「あそこの樹の下だ!」
はっと我に返った。
「いいな?みんながにじゅっさいをこえたら見に来ような!」
「うん!」
小気味いい返事はちとせと揃い、木霊して消えていった。
それに反応するかのように心地のいい風が吹く。
しかし
急に視界が歪んだ。
気持ちが悪い。
頭痛がする。
平衡感覚が失われていく。
景色が白黒に。
――またも意識がブラックアウトした。
カーテンから日が差す。
慎太は飛び起きるようにベットから飛び起きた。
「タイムカプセルってあのことか」
慎太は高揚感と幸福感に包まれていた。
懐かしい、いい気持ちだった。
しかしなぜこの夢をみたのか。
単に思い出すためだけだろうか。
もっと大切なものをこの夢は伝えたかったのではないだろうか――
考え過ぎかと慎太は考えるのをやめた。
今日は、夢で見た田舎に戻るのである。
初めはタイムカプセルは何かと思っていたが夢のおかげで今はわかる。
何が原因で夢を見たかは知らないが、何か運命めいたものを感じた。
それほどあの時の時間は慎太にとって本当に大切なものであったからだ。
慎太は支度を済ませ急いで部屋を出ていった。