夏の欠片
――ヵン!ヵン!カン!ガン!
騒々しい。ああ騒々しい。騒々しい。
仕方なく薄目を開けると、ばあさんがフライパンとお玉を力強く叩いている。
鬼のような形相で。おまけにピンクのかわいらしいお花柄のエプロン。
「朝じゃあ〜!起きろおおおおお!」
「うわあああああああああああああ!!」
慎太は仰天した。
近所迷惑なばあさんだ。
「はよおお起きろおおおおおお!」
「わかりました!起きます!」
「よろしい。ご飯できてるからね。」
慎太の眠気はすぐに何処かへ行ってしまった。
無理もないと思う。
慎太は眠くない眼をこすりながら食卓へと向かった。
こんなことを昔の自分は毎日耐えてたのかと思うと自分に感心した。
ふすまを開けるといい匂いがした。味噌の匂いだ。
もうそこには朝食が並べられていた。
卵焼き、豆腐とわかめの味噌汁、漬物、ご飯、昨日の煮物。
相変わらず美味しそうだった。
朝はなかなか腹が減らないが今日に限っては違った。
「いただきます」
「いただきます」
ご飯を頬張りながらおばあちゃんが聞いてきた。
「シンタ、宿題はやってるかのう」
慎太はあっと思った。しかしそれが顔に出ていたみたいだった。
気づいた時にはもう遅い。
おばあちゃんの目が鋭く光る。
右手が凄まじい速さで慎太の皿へ。
息もつかぬ間に慎太の分の卵焼きはおばあちゃんの胃袋へ収まった。
「何すんの!」
「宿題やってないシンタが悪いんじゃあ〜。今日の卵焼きは今まで一番うまくできたかもしれんのう」
このばあさんどや顔である。
若干のイラつきを感じながらも、もう無いものは仕方がない。
仕方ないのでおかわりをもらうことにした。
「おかわりはいいでしょ」
「しょうがないなぁ」
おかわりは許してもらえた。
味噌汁を飲み干し、おかわりしたご飯を強引に胃袋の中に入れた。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
慎太はさっさと片付け洗面所に行き顔を洗い、歯を磨いた。
やることもないので新聞を読んでいるとインターホンの音が聞こえる。
「シンターッ!遊びに来たぞー!」
「シンちゃーん!」
「今行くー!」
慎太は急いで着替えた。いつもの短パンとTシャツという出で立ちだ。
「ばあちゃん。遊び行ってくる!」
「きをつけてのう。早く帰ってくるんじゃぞ」
慎太は駆け足で玄関へと向かった。
「今日は何して遊ぼうか?」
しばらく歩いて田んぼと田んぼの間のあぜ道を歩いている慎太は聞いた。
うだるような暑さの中、当てもなくただただ歩く。
見渡す限りの田園風景。鼻をつく糞尿の匂い。
「んー、かくれんぼは昨日したからな〜」
「そうだな〜」
適当に答えておいたが嫌味に聞こえた。
それに慎太にもこれといったあてはなかった。
「タイムカプセル作りたい」
ちとせが言った。
一瞬時間が止まった。
それはあまりにも唐突で、理解するころにはシンタとケータは声を揃えていた。
「タイムカプセルゥ!?」