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ぷぷぷっぱ
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夏の欠片

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「た・・・ただいま」
あのころに戻ったわけだが、どうも不安だった。
それが声によく表れていた。
「おかえり〜シンちゃん」
しかし、その心配は杞憂に終わった。
少し曲がった腰、深く刻まれた額の皺、それでいて柔和な顔つき。
間違いない。
「夕ご飯の用意できてるよ。それともお風呂?それとも」
慎太は腹を空かせていたのと、このボケを早々に終わらせるため
「ご飯で」
即答した。
「あん、もう!」
しかしこのばあさん愉快である。そこで悶えている。
ハッと我に返ったおばあちゃんは今用意するからねーと台所へ。
慎太はテレビをつけチャンネルを回すがニュース番組しかやっていない。
仕方なく適当なチャンネルを見ることにした。
世界情勢やら何やらがやっているがまったく興味が湧かない。
退屈そうに色彩豊かな画面を見つめていた。
数分すると美味しそう匂いとともに食事が運ばれてきた。
純和食であった。
卵焼き、夕顔の味噌汁、白いご飯、煮物、ホウレン草のおひたし、漬物etc・・・
食の洋風化が進んだ現代社会の食卓とは程遠い食卓だった。
古き良き時代の食卓とはこういうことを言うのだろう。
「いただきます」
「いただきます」
味噌汁から頂いた。
いい匂いだ。体が温まる。心も暖まる。
味噌の香りは落ち着く。
卵焼きも頂いた。
綺麗な黄色であった。微妙な焼き加減。少しとろっとしている。それでいて程よく甘い。
あまりにも美味しかった為、慎太はものすごい勢いで晩御飯を平らげた。
「ごちそうさま!」
「お粗末さまでした」
しかし、体がべた付いて気持ち悪い。
「風呂入るね」
「いい湯加減だよ。はいってらっしゃい」
慎太は急いで裸になって風呂に入ろうとした。
しかし、洗面所の鏡を凝視した。
「・・・すげえ昔の俺だ。」
つやつやした丸顔。あか抜けない顔。童顔。
うおおおおおおと慎太は思った。
「本当に昔に戻ったのか・・・」
驚きと困惑、それでいて少し嬉しかった。
昔の自分は貧相な体付きをしている。
「う・・・寒い。早く入ろう」
全裸の少年は風呂に入ることにした。
「くぅぅぅぅぅぅ〜」
湯船に浸かった慎太は中年オヤジのような声を漏らしてしまった。
無理もない。体は子供、しかし心は大学生なのだ。
しかしそんなことはどうでもよかった。
湯加減が最高にいい。まさしく極楽浄土である。
芯から暖まっていくようであった。
1人暮らしの部屋で入る風呂とこうも違うと何が違うのだろうと模索してしまう。
お気に入りのマイケルジャクソンのビリー・ジーンの鼻歌を歌いながらずっと他愛ないことを考えていた。
すると視界が一瞬歪んだ。
どうやらのぼせたらしい。
慎太は風呂場を後にしパジャマに着替え、部屋に向かった。
「いい湯加減でした〜」
「それはけっこうで」
ちゃぶ台を拭きながらこちらを見ずにおばあちゃんは答える。
ふと、これは夢の中なんだなと思った。
祖母の背中は大きく見えた。

テレビを見ていると急に眠気が襲ってきた。
そろそろ頃合いであろうか。
小さい体になると眠くなるのが早いらしい。
「もう寝るよ」
「はいはい、おやすみなさい」
慎太は寝床へ向かった。
タオルケット1枚を掛ける。
衣装箪笥の横にある人の歌舞伎役者の目がこちらを向いているような気がして寝返りを打った。
敷布団なんて久しぶりだなと思いつつ床を手で擦ってみた。
畳の匂いがする。
しかし暑い。タオルケットすらいらないくらい暑い。
外ではカエルの鳴き声が聞こえる。うるさいくらいだ。
慎太は布団の中でまどろみながら今日の出来事を一つ一つ思い出していた。
そしてまた自分が今おかれている状況を確認した。
これは夢、だから今の自分は昔の自分ではない。
そういったことを周りの者に伝えようと思ったがやめた。
信じてくれはしないだろう。それに立ち振る舞いも不審がられてはいない。
このままでいい。自分から関係を壊すことはない。
しかし夢であっていつか覚めるのだ。
楽しかった、もう少しだけでいいからこの夢が続いてくれれば――



意識がブラックアウトした。
作品名:夏の欠片 作家名:ぷぷぷっぱ