夏の欠片
暑中見舞い申し上げます。
梅雨が明け厳しい暑さが続きますがいかがお過ごしでしょうか。
今年は何でも過去に例を見ない猛暑だそうですね。慎太、大丈夫か〜?
神奈川は暑いでしょう。秋田もなかなか暑いです。
そういえば、覚えていますか?
あのタイムカプセル――
時期は8月上旬。
旧友からの手紙を読み、ああ懐かしいなと感慨にふける。
「大学生になってからというもの遊び呆けてばっかりだな」
ポツリと呟く。
その言葉は1LDKの部屋には広すぎた。
そういえば昔――
ふと、慎太の脳裏に鮮やかなヴィジョンが流れた――
澄んだ青い空、周りに広がる木々。
見渡す限りの田園風景。冷たい小川。肥料となる糞尿のにおい。
「懐かしいな、タイムカプセルってなんだ?だいたいちっちゃい頃作るはずだから・・・」
懐かしき旧友との再会に胸を弾ませ、日々を過ごす。
そして出発前夜の夜の夢。
――蝉の声が聴こえる。
うだるように暑い、ここは何処だ。
あたりを見渡すとここはどうやら神社のようだった。
城沢神社――?
その神社赤い鳥居が1つ前にあった。やけに大きく感じた。
すぐそばで可愛らしい声が聞こえた。
「もーぅいいかぁーい」
「もーぅいいよぉー」
鳥居の柱で目を瞑りながら数を数えている子がいた。
そしてどこからかもういいよの声。
あ、かくれんぼだと思った時には遅かった。
「シンタ君、みっけ!」
「え、俺!?」
おかっぱの可愛らしい小学1年生くらいの女の子が仁王立ちでこちらを指さしている。
しかし、すぐに興味を失ったかのようにまだいるであろうもう一人を探し始めた。
ところで、慎太には今おかれている状況が全く理解し難かった。
「俺、寝たよな。ってことはこれは、夢か。にしてもリアルだなぁ〜って、えぇぇ!!」
鳥居を触ってみる。確かな質感。暑い。
自分の体を見下ろす――
「俺、ちっさくなってるぅ!」
慎太は仰天した。
理解し難い。
しかし、この神社覚えている。この風景。この時代。この匂い、景色。
そしてこの子の名前は――
「ちとせだ!」
「何?」
声に出ていたらしく返事を仰いでしまった。
気が付けばさっきの女の子が目の前にいた。
「呼んだ?」
「呼んでない」
「嘘」
「呼びました。すいません。なんでもないです」
慎太はなぜ嘘ついたのか自分でもわからなかった。
「んだよ、もう見つかったのかよ〜」
すると、神社の下の土台だろうか?その隙間からヌッと顔を覗かせて出てきた少年がいった。
少年はさも不機嫌そうにこちらを見つめている。
おそらくすごくいいところに隠れていたのだろう。それが神社の下の隙間であるらしい。
この少年も同じく慎太と似たような出で立ちであった。
みていてすがすがしい坊主頭だった。一昔前の子供という雰囲気だった。
「ケーちゃん、なんかシンちゃんおかしいよ〜」
おかっぱの女の子は心配そうに言う。
「ほ〜、どれどれ〜口開けてみぃ」
「口じゃないわ!頭だよ!」
「おまえ、失礼だろ」
「ごめん・・・」
やりとりは寒いが見ていて面白かった。
コントだろうか?
ふと、夢の中でタイムスリップしたのではないかと思った。この二人を覚えているからだ。
的外れな答えではないと思った。
1人自分に感心していると次の瞬間、頭に鈍痛が走った。
「痛ッッッ!」
「何、ニヤニヤしてんじゃ!気持ち悪い!」
ニヤニヤしていたようだ。自分で顔を直す。
鈍痛の原因はどうやらケーちゃんことケイタに平手で殴られたようだった。
しかしその姿はもう目の前にはなかった。
「病院連れていこか、ありゃ末期じゃ」
などとちとせとこちらに背を向け真剣に喋っている。
さすがにまずいと思った慎太は
「ごめんごめん。面白くって。」
と、無難な返しをしておいた。
するとまたも次の瞬間、平手が飛び
「痛っ!」
「面白いなら声に出して笑え!ニヤニヤすんな!」
ちとせが軽蔑した視線でこちらを見る。
そしてケータには怒られた。意味不明だ。
だが、なぜか不快ではなかった。懐かしい。昔もこうしていたっけな。
昔のことを思い出しているとをある動物の鳴き声がした。
カラスだ。
「カラスがないとるぞ!もう帰る時間だ!まずい、母ちゃんに怒られる!ちとせ帰るぞ!」
「うん!」
「また明日な!シンちゃん!」
そういうと二人はあっという間にいなくなってしまった。
慎太も帰ろうと思った。
幸い、帰る家も記憶にあったらしい。
記憶を頼りに家路についた。
思い出してみればこのころの慎太はまだ小学3年生で、田舎暮らしだった。
その年の冬に神奈川へ転校することになるのだがこの夢はどうやらその年の夏休みものらしい。
この時はいろいろな事情でおばあちゃんの家に居候させてもらっていて両親は神奈川のほうにいたのだった。
慎太は引っ越すこと自体にあまりいい印象を抱いてはいなかった。
そのため引っ越して当初は糞尿のにおいがキツく、テレビのチャンネルもろくにないため
ド田舎めと思っていたがすぐに好きになった。
原因としては学校の友達がすごく付き合いやすかったのだ。悪く言えば馴れ馴れしいだろうか。
そういえばケイタとちとせは兄妹だった。
そこでは結構有名な兄妹で村ではケータはガキ大将、ちとせはおてんば娘で通っていた。
二人とも転校初日からあたかも久方ぶりにあった友達のような感覚で話しかけてきた。
ここを好きになった理由はそれだけでなくビルに囲まれて育った慎太にとっては見る風景すべてが新鮮だったからだ。
そのためわずかだがここにいた時間は慎太にとって今でも宝物なのだ。
だから夢はそのうち終わってしまうがこの宝物のようなひと時を楽しむかと素直に思った。
子供のころに戻ろうと。
そんなことを考えているうちに家に着いた。
家の屋根からは煙がもくもくと出ている。
古い家だ。風呂を沸かしているんだろう。
慎太は勢いよく玄関のドアを開けた。
梅雨が明け厳しい暑さが続きますがいかがお過ごしでしょうか。
今年は何でも過去に例を見ない猛暑だそうですね。慎太、大丈夫か〜?
神奈川は暑いでしょう。秋田もなかなか暑いです。
そういえば、覚えていますか?
あのタイムカプセル――
時期は8月上旬。
旧友からの手紙を読み、ああ懐かしいなと感慨にふける。
「大学生になってからというもの遊び呆けてばっかりだな」
ポツリと呟く。
その言葉は1LDKの部屋には広すぎた。
そういえば昔――
ふと、慎太の脳裏に鮮やかなヴィジョンが流れた――
澄んだ青い空、周りに広がる木々。
見渡す限りの田園風景。冷たい小川。肥料となる糞尿のにおい。
「懐かしいな、タイムカプセルってなんだ?だいたいちっちゃい頃作るはずだから・・・」
懐かしき旧友との再会に胸を弾ませ、日々を過ごす。
そして出発前夜の夜の夢。
――蝉の声が聴こえる。
うだるように暑い、ここは何処だ。
あたりを見渡すとここはどうやら神社のようだった。
城沢神社――?
その神社赤い鳥居が1つ前にあった。やけに大きく感じた。
すぐそばで可愛らしい声が聞こえた。
「もーぅいいかぁーい」
「もーぅいいよぉー」
鳥居の柱で目を瞑りながら数を数えている子がいた。
そしてどこからかもういいよの声。
あ、かくれんぼだと思った時には遅かった。
「シンタ君、みっけ!」
「え、俺!?」
おかっぱの可愛らしい小学1年生くらいの女の子が仁王立ちでこちらを指さしている。
しかし、すぐに興味を失ったかのようにまだいるであろうもう一人を探し始めた。
ところで、慎太には今おかれている状況が全く理解し難かった。
「俺、寝たよな。ってことはこれは、夢か。にしてもリアルだなぁ〜って、えぇぇ!!」
鳥居を触ってみる。確かな質感。暑い。
自分の体を見下ろす――
「俺、ちっさくなってるぅ!」
慎太は仰天した。
理解し難い。
しかし、この神社覚えている。この風景。この時代。この匂い、景色。
そしてこの子の名前は――
「ちとせだ!」
「何?」
声に出ていたらしく返事を仰いでしまった。
気が付けばさっきの女の子が目の前にいた。
「呼んだ?」
「呼んでない」
「嘘」
「呼びました。すいません。なんでもないです」
慎太はなぜ嘘ついたのか自分でもわからなかった。
「んだよ、もう見つかったのかよ〜」
すると、神社の下の土台だろうか?その隙間からヌッと顔を覗かせて出てきた少年がいった。
少年はさも不機嫌そうにこちらを見つめている。
おそらくすごくいいところに隠れていたのだろう。それが神社の下の隙間であるらしい。
この少年も同じく慎太と似たような出で立ちであった。
みていてすがすがしい坊主頭だった。一昔前の子供という雰囲気だった。
「ケーちゃん、なんかシンちゃんおかしいよ〜」
おかっぱの女の子は心配そうに言う。
「ほ〜、どれどれ〜口開けてみぃ」
「口じゃないわ!頭だよ!」
「おまえ、失礼だろ」
「ごめん・・・」
やりとりは寒いが見ていて面白かった。
コントだろうか?
ふと、夢の中でタイムスリップしたのではないかと思った。この二人を覚えているからだ。
的外れな答えではないと思った。
1人自分に感心していると次の瞬間、頭に鈍痛が走った。
「痛ッッッ!」
「何、ニヤニヤしてんじゃ!気持ち悪い!」
ニヤニヤしていたようだ。自分で顔を直す。
鈍痛の原因はどうやらケーちゃんことケイタに平手で殴られたようだった。
しかしその姿はもう目の前にはなかった。
「病院連れていこか、ありゃ末期じゃ」
などとちとせとこちらに背を向け真剣に喋っている。
さすがにまずいと思った慎太は
「ごめんごめん。面白くって。」
と、無難な返しをしておいた。
するとまたも次の瞬間、平手が飛び
「痛っ!」
「面白いなら声に出して笑え!ニヤニヤすんな!」
ちとせが軽蔑した視線でこちらを見る。
そしてケータには怒られた。意味不明だ。
だが、なぜか不快ではなかった。懐かしい。昔もこうしていたっけな。
昔のことを思い出しているとをある動物の鳴き声がした。
カラスだ。
「カラスがないとるぞ!もう帰る時間だ!まずい、母ちゃんに怒られる!ちとせ帰るぞ!」
「うん!」
「また明日な!シンちゃん!」
そういうと二人はあっという間にいなくなってしまった。
慎太も帰ろうと思った。
幸い、帰る家も記憶にあったらしい。
記憶を頼りに家路についた。
思い出してみればこのころの慎太はまだ小学3年生で、田舎暮らしだった。
その年の冬に神奈川へ転校することになるのだがこの夢はどうやらその年の夏休みものらしい。
この時はいろいろな事情でおばあちゃんの家に居候させてもらっていて両親は神奈川のほうにいたのだった。
慎太は引っ越すこと自体にあまりいい印象を抱いてはいなかった。
そのため引っ越して当初は糞尿のにおいがキツく、テレビのチャンネルもろくにないため
ド田舎めと思っていたがすぐに好きになった。
原因としては学校の友達がすごく付き合いやすかったのだ。悪く言えば馴れ馴れしいだろうか。
そういえばケイタとちとせは兄妹だった。
そこでは結構有名な兄妹で村ではケータはガキ大将、ちとせはおてんば娘で通っていた。
二人とも転校初日からあたかも久方ぶりにあった友達のような感覚で話しかけてきた。
ここを好きになった理由はそれだけでなくビルに囲まれて育った慎太にとっては見る風景すべてが新鮮だったからだ。
そのためわずかだがここにいた時間は慎太にとって今でも宝物なのだ。
だから夢はそのうち終わってしまうがこの宝物のようなひと時を楽しむかと素直に思った。
子供のころに戻ろうと。
そんなことを考えているうちに家に着いた。
家の屋根からは煙がもくもくと出ている。
古い家だ。風呂を沸かしているんだろう。
慎太は勢いよく玄関のドアを開けた。