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「ツアコンは見た!」

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 おひとり参加のOさんだ。そういえば、出発前に電話で話した時、山の気候に備えて防水コートを買うと仰っていた。
 お花が好きだと話す、その控え目な声に私が抱いたイメージ通りの方だった。
 パスポートに航空券を挟み、搭乗ゲートの説明をする。しかし、Oさんの返事はどうも頼りない。
「ひとりで大丈夫かしら?」
 結局、彼女には受付が終わるまでお待ちいただき、二人で一緒にゲートまで行った。

 ルフトハンザ航空でミュンヘンに入り、2日目はドイツ南部のツークシュピッツェに登頂。3日目はバスにて東チロルの山道グロスグロックナーを駆け抜けた。
 参加者は全15名。ご夫婦が5組、3人家族1組、おひとり参加2名という構成だった。
 今のところ特に大きなトラブルもなく、出だしは順調か。グループ全体の雰囲気も悪くない。悪くないが……団体の中、Oさんは一人でいることが多かった。

 ツアー5日目。この日は北イタリアが誇る奇観、ドロミテ山塊の半日ハイキングだ。
 朝食後、コルティナ・ダンペッツォのホテルを出発。程なくして、車窓に切り立った山々がのぞく。
 これまで見てきたアルプスのイメージとは違った。灰色がかった山肌はゴツゴツしていて、まるで城塞のようだ。
 大昔、この辺りは浅い海底だったらしい。それが大陸移動によって2000〜3000メートル隆起し、今の姿となったそうだ。ドロミテの由来でもある「ドロマイト」とは石灰岩の一種で、これは山塊全体がかつてサンゴ礁だったことを物語っている……のだ、とか。
 参考資料を片手にマイクで喋りながら、横目でグループ全体の服装を見まわす。天気予報では午後から雨だ。防水対策は問題なさそうだが、出来れば夕方までもってほしい。

 碧色が美しいカレッツァ湖から山道をぐんぐん上り、中腹付近の駐車場でバスを降りた。
 辺りに漂う白いもやは、霧か、それとも雲か。高度が上がると空気も冷たい。
 トイレ休憩後、合流した現地ガイドを先頭に、ドロミテ山塊ドライチンネン(三本指を意味するドイツ語。イタリア語では「トレチーメ」)のハイキングが始まった。
 平坦な遊歩道。すぐ左側には壁のような山肌。右には緩やかな下り斜面が続いているようだが、視界はそれほど広くない。

 歩きだして小一時間。霧のような小雨が降り始めた頃、左前方にうっすらと何かが見えた。
「標高2999メートル。ドライチンネンの頂上です」
 イヤホンを介してガイドの声が説明した。
 でかい! 三本指というより、天に向かって突き出した三つの……でかい山。怪物。上手い例えが見つからない。
 うっかり興奮し、すぐに平静を装う。これでは初めて来たことが丸分かりだ。
作品名:「ツアコンは見た!」 作家名:樹樹