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こんぶ -Reloaded-

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 八条と奇妙な会話した翌日の放課後。己の思考と行動の怠惰っぷりに呆れるのは不毛なので、言わずもがなではあるけど、また同じように部活へと向かう。クラスメイトたちは、ホームルームが終わって誰に何を言うこともなく姿を消す男子生徒A(十七歳)を気に留める様子は微塵もない。これが都会の隣人無関心か、などと嘆く気は毛頭なく、円滑な人間関係の構築というのは、適度に他人に対して無関心を装うことから始まると僕は信じている。などと言うのは決して友達がいない負け惜しみではなくて。いや、一応念のため、ね。まぁ友達なんていないけどさ。
 しかし実際彼らの無関心さはどちらかと言えば気に入ってはいるのだ。見過ぎる者は得てして見失う。僕は他者に対して踏み込むのも、また踏み込まれるのも嫌だ。
 まぁこんなことを考えている時点で僕が思春期真っ盛りのイタイ奴だというのは自明の理だ。こんなのは数年経って振り返れば顔を枕に埋めて両足をバタつかせたくなるくらい恥ずかしくどうでもよい感傷に過ぎない。
 よし。メランコリーに浸るのは止めだ。大体無関心なのはお互い様なのだ。僕がいなくなったところでクラスメイトの多くが無反応であるのと同時に、また僕もクラスの誰かがいなくなろうが死のうが正直知ったこっちゃない。人間なんて代りが利くものなのだ。いけない。またイタイ哲学をやってしまっている。そんなつまらない思索に耽っているうちに、気が付けば文化棟二階の渡り廊下までやって来ていた。八条の奴は多分もう来ているんだろうか。そう言えばあいつが僕より後に来たのって見たことないなぁ。部活動に対して余程熱心なのか、それとも物好きな暇人なのか。とりあえず僕の場合は後者なのだろうけど。
 まぁそれはさておき。閑話休題だ。
 今は八条のことでも考えてみるか。もう少しで部室に着くだろうけど。この渡り廊下が何歩分の距離かは知らないが、少しばかり考えを巡らす余裕はあるだろうと、目分量でいい加減な見当をつけてみた。じゃあれっつしんきんぐたいむ…………はーい到着。残念だったね、と胡散臭い声をひとまず脳内再生。部室に入るとやはり八条は既にいつもの席に着いて業務に励んでいた。こいつは皆勤賞でも狙ってるんだろうか。そんなのはうちの部にはないけど、こいつのためなら賞状くらいは書いてやってもいい気がする。まぁ冗談だけど。僕に気付くと会釈してきたので、こっちも軽く片手を挙げて挨拶の代わりとしておいた。
 
 さて、と。
 
 極めて通常営業な様子を崩さず僕もいつもの席に腰を下ろした。普段なら電源を入れて業務開始といったところだが、今日は別にピンボールに励む気分ではない。先ほどの八条岬に関する思索実験も頓挫したばかりだし。せっかく御本人もいらっしゃることだしね。何の言い訳にもなっていないけれど、鞄を隣の椅子の上に投擲すると、ぐるり百八十度ターン。左斜め後ろという最高かどうかはわからないポジションから観察を開始した。
 肩にかかる黒髪はキチンと手入れされているのか、触ったわけでは勿論ないけどサラサラのように見える。時々左手で少しだけ髪をかきあげる仕草がひどく大人っぽいのに少々驚いた。というか本当にこいつ年下なんだろうか? 社会人経験ありますとかそういう設定ないよな? あったら……別に困りはしないか。まぁそれはさておき。はい観察再開。幸いなことに八条は画面とノートとの睨めっこに忙しいらしく、僕の無遠慮な視線に気付く気配はない。これはありがたや。右手のシャープペンシルを回しつつ、時折ノートを覗き込んでは再びキーパンチの連打、という一連の動作を八条は繰り返していた。ノートの中身が若干気になるところではある。いわゆる『設定ノート』なのだろうか。数年後にはブラック・クロニクルと化すのが確実ということを、見た目はOL中身は高一の八条は知らないのだろうなぁ。まぁそれはさておき。細いメタル・フレームの眼鏡は相変わらず。きっちり制服を着こなしているのもまた然り……
「書きづらいじゃないですか。いつからここは人間観察部になったんですか?」
 おっとぉ。バレてましたか。後頭部にもう一つ眼球でも付属しているのかと一瞬目をやったがそんなものは無かった。当たり前である。事務椅子を百六十度ほど回転させ、まるで覗きの犯人(あながち間違いで無いのが残念)を咎めるような口調で八条は続けた。
「いくらやることに事欠いたとはいえ、後輩をじろじろ眺め回すのは感心しませんね」
 おい。それって完全に僕より先輩な立場の人の台詞だよな。まぁいいけど。諸事情を理解していない第三者がこの現場を見た場合、僕らの階級関係を正確に見て取れる輩は少数派だろうしな。しかし。それでもここで引くわけにはいかないのだ。というわけ(どういう訳かはわからないけど)で、まずはジャブ代わりの一言から始めましょう。
「気を悪くしたなら謝るよ。でもさ……そんなに嫌?」
 普段は若干細い八条の目がぱっちりと開いたのを見逃さなかった。
「え、あ、あ……え? って! 何言ってんですかそんなの」「嫌?」
 台詞を最後まで言わせないのが僕クオリティー。そしてしばしの沈黙。八条の頬に若干朱色が差し始め、言論統制を敷かれたのが余程ショックだったのか、その体勢は俯いて両の手を硬く握っていた。いかんな。一瞬あんぐりーふぃすとを叩き込まれるのではないかという不安が過ったので、ガードしようかしまいか――いや、この際は侘びも兼ねて受け止めるのが管理職の務めであると自らを納得させ、サラリーマンシップに乗っ取ってみることにした。
「…………別に、そこまで嫌ってわけじゃないですけど」
 どうやら修羅場は回避出来たようである。
 本日はこんな具合にして、僕が会話の主導権を完全に握ることが出来た。別に普段八条にやり込められている訳ではないから、他意も恨みも微塵に存在しないのだけれど。ただなんというか、まぁ正直楽しいからやった。こう書くと犯行動機を「遊ぶ金が欲しかった」などと正直に返答してしまう無軌道十代のようで嫌だけど。しかし普段のクール・ビューティっぷりがまるで嘘のように自爆と炎上を繰り返す八条を見ているのは、なんだか微笑ましく、やけに和んだ。これが成長した孫を眺める老翁の気分か(違う)。そして改めて僕自身が御隠居としての資質十分ということが確認できた。嘘である。
 普段から業務連絡や最低限の世間話をすることは多々あったが、お互いの私的な話をするのは久しぶりだった。ようやく八条が鎮火した頃を見計らって通常営業を再開。まずはクラスでの友達の数を競い合った。
「八条はクラスに友達とかいるの?」
「聞きようによらなくても失礼な質問ですね。そう言う先ぱいはどうなんです?」
「いないよ」
「即答ですか。まぁ……私もそうですけど。あ。でも先ぱいは確か副部長さんと同じクラスだって言ってましたよね。話したりしないんですか?」
「山村とは……そんなでもないかな。単に部活が同じってだけでそんなに仲がいいわけじゃないから。まともな会話が出来る相手でもないしね」
「そうなんですか」
「そうなんだよ」
 一回戦はお互い零対零の同点であった。そうでもなきゃこんな部の活動に精を出すはずはないだろうけど。
続いての成績対決は、
作品名:こんぶ -Reloaded- 作家名:黒子