二郎
当然生活を共にするようになれば、名前を付けてやらねばならない。ここはシンプルに、高見沢一郎の名を継いで、二郎と名付けてやった。そしてさらにわかってきたことなのだが、水を飲ましたりしていると、二郎は確実に成長していくのだ。
出逢ってから三ヶ月、二郎は随分と発育し、直径五十センチ位の大きさにもなってきた。さらに驚くべきことに、要求までをもするようになってきたのだ。例えば高見沢がビールを飲んでいると、遠慮することもなく球体をぎゅっと前へ尖らせて、ビールをねだってくる。
そんな二郎が、今宵も高見沢の目の前で、気楽そうにふわりふわりと浮かんでいる。そして、こともあろうか、またまた早くビールを飲ませろと口をツンと尖らせてくるのだ。だが今夜の高見沢は少し虫の居所が悪かった。遠慮もなくせがんでくる二郎が気に食わない。
「俺のビールばっかり飲みやがって、一体お前は誰なんだよ?」
高見沢は尖り声で二郎に問いただしてみた。すると二郎は球体を突き出し、無礼にも高見沢を下あごで指してくるのだ。
高見沢はこの仕草がどういう意味なのか最初わからなかった。しかししばらくしてはっと気付く。
「おいおいおい、それって、お前は俺ということなのか? となると、俺は……お前か?」
高見沢はこう思い至り、その意外さですべての動作と、そして思考がカチンと固まってしまった。
こんな高見沢に、二郎は自信たっぷりに、「うんうん」と頷く。