二郎
高見沢がこんな二郎に初めて遭遇したのは、確か寒い満月の夜だった。会社の仲間たちと飲み歩き、かなり酔っ払って帰ってきた。そして一っ風呂浴びて、あとはゆったりとニュースを観ていた。そんな時のことだった。目の前に、五センチくらいの、シャボン玉のような物がふわりふわりと浮かんでいたのだ。
「こいつ、何だよ?」
高見沢はまず息をフーと吹き付けてみた。だが割れずにゆらゆらと揺らぎ、空気中を漂っている。次に近くにあった楊枝で突き刺してみた。しかし、そのまま球体の中にスポッと指ごと入ってしまい弾けない。
「ほぉー、奇妙奇天烈なヤツだなあ。だけど実に鬱陶(うっとう)しいよ」
高見沢はそう文句をつけ、窓を開け蒼い月に向けて放り出した。しかし翌朝、また部屋の中にふんわりと浮かんでいるのだ。
こんなことを三回ほどは繰り返しただろうか。その内に、単身赴任の殺風景な部屋の中で、ただただ浮かび、自由に漂っているだけのこんな半透明の球体に愛着も湧いてきた。そしてついに諦め、「まっいっか」と一緒に暮らし始めたのだ。