キツネ目をつかまえろ
「そうですか。女性の乗務員は?」
「泣いてましたけど、無事です」
結城は早川を凝視めた。
「早川さん。お世話になりました」
「負傷者が出ましたが、大事件にならなくて良かったですね」
結城がザイルで拘束した若い男は、二台目のパトロールカーに押し込まれるところだった。
「救急車が来るまで僕はここを離れられないので、姉のところへ行ってあげてください。お願いします」
「わかりました」
早川は再び走った。
タクシーはまだハザードランプをつけたままだった。智織は車の中で、外の警察官と話をしていた。憔悴した顔の彼女は、自分の車で警察署へ行くことになったようだった。
警察官がそこを離れてから、早川は智織に声をかけた。
「大丈夫ですか?会社には連絡してありますね?」
「はい。すみません。お世話になりました」
智織は運転席から云った。
「飲んでなければ運転を代わってあげられるんですが……」
作品名:キツネ目をつかまえろ 作家名:マナーモード