キツネ目をつかまえろ
「すみません。その事故に僕も絡んでいたので……」
彼は目に涙をためている。早川は追及しては拙いと思った。
「それは辛い話ですね。で、パリでたくさん絵を描いたんですね」
「イタリアや、ベルギーでも描きました。出来あがると日本に送りました」
「お姉さんのところに送ったんですね」
「いえ、銀座の画商に送ったんです。僕が日本に居なくても、画商は個展を開いてくれました」
「観たかったなあ。その個展は銀座で開かれたんですね?」
「地方のデパートでもやったようです」
「よく売れたんですね?」
「そこそこ売れたという話でした」
「代金の一部をパリへ送金してくれたんですね」
「ところで、コクトーさんのハンドルネームは、フランスの芸術家、ジャン・コクトーに由来するわけですよね」
「全然無関係です。黒糖梅酒をたまたま飲んでいたときに決めたんです」
「そうだったんですか!勘違いしてました」
作品名:キツネ目をつかまえろ 作家名:マナーモード