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キツネ目をつかまえろ

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 機械に近い方の席に早川が座り、その斜めの位置に結城が腰をおろした。歌のリストの厚い本に手を伸ばしながら、不思議な気持ちだった。すぐ傍に居るのは、先週まではその存在さえ知らなかった男なのだった。
「カラオケは随分久しぶりです」と、結城。
「僕も久しぶりです。でも、雰囲気は昔と変わりませんね」
 結城はお先に失礼と云うと、曲目リストの本と自分の手帳を見較べながら、テーブルに置いてあったメモ張に曲の番号を書き写し始めた。
「CDに録音できるなんて、さすがに二十一世紀なんですね」
「今の子供たちはカセットテープを見たことがないと云うんですからびっくりです。僕は準備ができましたからどうぞ、コクトーさんも曲を決めてください」
 結城がリストを早川の前に置いた。
「ありがとうございます。でも、異常に速くリストアップしましたね」
「のんびりできない性分で、困ったものです」
「こちらは逆で困っています……カセットどころか、本だって危ない時代になりました。これからは電子書籍が主流になるかも知れません」
 早川も歌いたい曲を探し、番号をメモしながら話している。
ドアがノックされ、先程の娘が飲み物などを運び込んだ。
「シーザーサラダって、大昔のローマの将軍のシーザーと、関係があるんでしょうね」
 早川は思いついて行った。