キツネ目をつかまえろ
「ハイボールにします……あと、シーザーサラダ」
「CDは一枚に三曲まで録音できますけど、何枚必要ですか?」
「一人一枚づつにしましょうか」
「私の歌も録音するんですか?困ったなあ」
早川も歌には自信があるのだが、録音するとそれが崩れそうで怖い。
「記念に一枚、録音しましょう」
「わかりました。記念にね」
「お客様、先程は大変失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
早川がCDを受け取り、あどけない顔の娘に案内されて三人で廊下を歩いて行った。周囲は驚くほど静かで、不景気の深刻さを早川は改めて実感した。
「お客さんが少ないんですね。従業員のかたは不安になりませんか?」
「平日ですからね、週末が近くなると忙しくなるんです」
室内の照明を抑えたその部屋に入ると、奥の液晶テレビが明るく映像を映し出していた。その大画面の中では、踊りながらアップテンポの曲を、大編成の女性アイドルグループが歌っている。
従業員の娘は曲に合わせて微かに身体を揺らしながら、簡単に操作の仕方を説明して去った。
作品名:キツネ目をつかまえろ 作家名:マナーモード