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キツネ目をつかまえろ

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 その前まで歩いて行くと、自動ドアの向こうには無人のカウンターがやはり、景気の悪さを無言で主張しているようにも思えた。中に入って早川がカウンターの上の呼び鈴を鳴らすと、奥の扉から黒いベストと蝶ネクタイ姿の若い男女が現れた。
「ありゃー。さっきの人じゃないですか!」
 眼を丸くしている男の従業員は先程の自転車の若者だった。傍らの娘も視線を往復させながら、目を白黒させている。慌てて着替えたばかりの若い男は、蝶ネクタイの位置を気にして直そうとしている。
「ここでバイトでしたか。腹いせに料金をつり上げないでくださいよ」
 結城のことばに反応して若者は一瞬困惑を見せたものの、すぐに対照的な笑顔になった。
「そんなことしませんよ!ええと、もしかして早川様ですか?」
「私が早川です。録音できる部屋は大丈夫ですか?」
「はい、しっかり確保してございます。とりあえず二時間ということでよろしいですか?」
「人数が少ないから、二時間で充分でしょうね」
 早川を見ながら結城はそう云った。
 若者はにこやかな表情のまま、
「お飲み物はこの中からお選びください」
カウンターの上には、カラー写真が印刷されている大きなメニューがあった。
「黒糖梅酒なんてありませんね……じゃあ、ウーロンハイとから揚げをお願いします。結城さんは何にしますか?」