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キツネ目をつかまえろ

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 若い男は倒れた自転車の傍に駆け戻って起こし、再びそれに乗ると振り向き、軽く会釈してから走り去った。通行人たちもそれぞれ何か話しながら歩み去った。
「すみません。予約してるんでしたね。こちらも急いで行きましょう」
 そうですね。でも、結城さんって……」
 歩きながら早川はことばに窮した。
「けんかっ早いって、思いました?」
「いえ、結城さんは勇気があるなって、思いました」
「名は体を表す、って?」
 結城はまた大声で笑った。そして、
「ダジャレは遠慮なく云ってください。僕も云ったばかりじゃないですか」
「ほかのマイフレさんで、ダジャレの人間国宝みたいな人がいるんです。その人に影響されてるかも……。でも、本当に勇気があるなって、そう思ったんです。感動しました」
 結城は少し照れたのかも知れない。
「あっ!ありましたよカラオケボックス」
 百メートル先にひときわ明るい一角がある。それが目指すカラオケボックスのビルらしい。手の込んだネオンサインが、派手さを隣のパチンコ屋と競い合っている。こうした光景を見ると、社会全体が不景気を装っているように、早川には思えた。