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― つかの間のふれ愛 ―

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 ――私が家を出たあの日、この娘はまだ小学校三年生になったばかりだった。
 しかし家を出る時、子供たちを集めて私は言った。
「お母さんはもうこれ以上お父さんと一緒には暮らせない。だから家を出て行くけど、どこにいてもあんた達のお母さんだからね……。会いたくなったらいつでも会えるんだよ。何かあったらいつでも連絡してくるんだよ。お母さんはあんた達を捨てて行くんじゃぁないからね。分かったねっ!」と。
 
 だが年端も行かないこの娘たちにどれだけ理解できていたのか?
 その後も別れた主人の理解と了解のもと、学校の夏休みに子供たちが私の所に来たり、また私の方から出向いたりしながら、母と子の絆だけは切らないように努めて来た。
 しかしそれも毎度のことながら、一緒に過ごすのは 精々二、三日のことだ。
 こんな風に身体をくっ付け合いながら暮らしたことはないのだから。 
 せめて今の内に……。一緒にいる内に……。
 これまで教えてあげられなかった色んなことを教えてあげよう!
 伝えてあげたい母親の愛を……。そう思いながら接していた。 
 
 一緒にいる間は本当に楽しかった。
 仕事から帰って来た娘は、その日の仕事場での出来事、友達のこと、車のこと、色んなことを話してくれた。
 時には彼氏と電話で話しながら帰って来て、そのまま夜寝るまでずうっと話してる――なんてこともあったが、私にもその少し前までは彼氏がいたから、残念だが失恋の話、そして娘の恋愛の話等、話題が尽きることはなかった。

 
 その日は私の五十三回目の誕生日だった。
 仕事中に娘からの電話があり、今日は娘が手料理を作ってくれるという。
 少しの不安を抱えながら帰途を急いだ。
 帰った時には、丁度の時間を見計らって料理ができていた。
 見ると美味しそうなハンバーグだ。
 なかなか彩りも良いし、野菜もたっぷりで、ソースが美味しそうに垂れている。
 
 一口食べてみた。
 うん! 美味しいじゃないか! わが娘、いつの間にこんなことまでできるようになったのか……? 
 ――無理もない。小学校の三年生のときからチビママをやってきたのだ。
 二人の弟の面倒をみながら留守がちな父を支え、お買い物に料理にさぞかし頑張って来たのだろう。
 だらしがない所も多々あるものの、これなら大丈夫。近い将来、きっと良い母親になれるだろう――そう思った。

 その楽しい日々にも突然終わりがやって来た。