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― つかの間のふれ愛 ―

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 帰ることのできないアパートを解約し、次の休みにはいよいよ引っ越して来た。 
 狭い台所には小型の冷蔵庫が二台も並び、小さい玄関には靴が溢れ、それまでは私のシングルのお布団に、互いをお尻で押し合うように寝ていたのが、セミダブルのベッドまで持って来たものだから、本当に空いているのは歩くスペースだけになってしまった。
 ただ寝る時だけは少しだけ余裕ができた。
 
 朝の出勤は娘の方が早く、帰宅時間は私の方が早かった。だから合鍵は作らなかった。
 たまに娘の帰宅の方が早い時もあったけど、そういう時は裏の縁側のガラス戸の鍵を閉めないで出掛け、娘はその裏の戸から出入りした。
 ――と言うより、正直に言えば鍵がかかっているのは玄関だけと言う方が正しい。
 常に玄関以外の場所の鍵は開いていたのだから……。
 
 親しい友人などには、
「危ないよ〜ちゃんと戸締まりしなきゃ! 泥棒入ったらどうするの!?」
 と、注意されるのだけど全く平気なのだ。
「うちに入ったって何も取る物なんかないしさ〜」と暢気なものだ。
 
 ところがそんなある日の夕方、仕事をしている私の携帯が鳴った。
 見ると娘からだ。
「はいはぁい! どうしたぁ?」と出ると、
「お母さん! おうち入れないよ〜!」と娘が言う。
「なんでよー。裏開いてるでしょう?」と答えると、
「閉まってる! どうしたらいい?」との返事。
 仕方ないから裏の大家さんとこに行くように言うと、
「会ったことないから嫌だ」と言う。
「それなら横の窓から入るしかないよ」と言って電話を切った。

 いつも閉めたことなんかないのに何故閉まってたんだろう? 気にはなるが仕事中だし、帰る訳にはいかない。
 
 夜、仕事が終わって自宅に着くと、例の横の窓の内側が悲惨な状態になっている。
 かなり苦労して入ったようだ。

「あれまぁ〜! ちゃんと片付けんさいよぅ〜」と言う私を尻目に、
「はぁ〜い!」と返事だけはするものの、片付ける様子はない。
 何やら車に付ける飾りを細々と作っている。
 
 散らかった窓辺をそのままにしておく訳にもいかず、お腹の虫が鳴くのをなだめながら、結局私がせっせと片付ける始末。
「まあ仕方ないか……」と、やはり娘には甘くなってしまう。
 考えてみれば、八歳の時に別れて以来だ。一緒に暮らすのは……。