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― つかの間のふれ愛 ―

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 娘が、私の一DKの狭いアパートに突然転がり込んで来たのは、そう九月の中頃だった。
 突然の娘からの電話。
「――ねぇ、今から行ってもいい?」
 時計を見ると、あと数分で明日になる時刻。
「そりゃあいいけど、どうしたん?」
「それでさぁ〜しばらくいてもいい?」
「構わんけど何かあったん?」
「じゃあ詳しいことは行ってから話すよ……」
 
 ――それからまもなく娘がやって来た。 
 
 娘が言うには、娘のアパートの前で男友達と立ち話しをしてたら、突然、同じアパートに住む(らしい)男性がやって来て、大きな声で娘に怒鳴りつけて来たらしい。話し声がうるさいと言うのだ。
 娘は普通の声で話していたし、その人が来てすぐに
「ごめんなさい!」って謝ったらしい。
 にもかかわらず、その男性の罵詈雑言はますます激しくなり、怖さの余り娘は過呼吸になった。
 すると、見兼ねたお隣のおばさんが助けに来てくれた。
 そのおばさんは、娘が朝早くから夜遅くまで働いてることもちゃんと知っていてくれたらしくって、その男性が、
「どうせ親の脛かじって遊び回ってるんだろう!」と言うのにも反論して、
「この子はそんな子じゃあないからっ!」と言って戦ってくれたらしい。
 娘は《知っててくれたんだ!》って思うと涙が出るほど嬉しかった――と言っていた。
 隣のおばさんの助けもあり、やっと自分の部屋に帰ることができたのも束の間、またその男性がやって来て、ドアを激しく叩きながら大声で怒鳴る。
 そしてついには110番。
 ――娘ではなく、その男性が電話したのだ。
 普通に考えたらあり得ないことだ。
 決して娘の方から何か仕掛けたという訳ではないのだから……。 
 急行して来たお巡りさんと最寄りの交番に行き、事情を聴かれやっと解放された後、うちに来たらしい。
 何という災難! 
 おかげで娘はその時から自分のアパートに帰ることができなくなってしまった。
 怖くって、帰ろうとするとまた過呼吸が始まるのだった。