ある飛行機の生涯
あの日からしばらく経って、ぼくは南アジアの空を飛んでいた。
ぼくはまだ、彼女の死を信じられなかった……。
そんなとき、ある飛行機から無線で呼びかけられた。その飛行機
は、倉庫でいっしょだったB−52さんだった。
「お久しぶりです。どこに向かっているんですか?」
「どこっておまえ、テロリストの家に向かっているに決まっている
じゃないか?」
「アフガニスタンですか?」
「そうさ! ムスリムどもを焼きに行くのさ。今日はもう三度目だ
ぜ!」
「大変ですね」
「死んだ4機の仲間のことを思えば、たいしたことないよ」
「そうですか」
「それじゃあな。同じ倉庫にいたおまえの彼女の分もしっかりやっ
ておいてやるからな!」
B−52さんはそう言うと、無線を切った。
ぼくにできることは無いかを考えた。B−52さんについていく
ことも考えたが、ぼくは爆弾を積んでいるわけではないので、落と
せる物といったら、マナーが悪い乗客のトランクぐらいだ。
自分にできることは何も無いとわかったとき、ぼくはひどく落ち
こんだ。
「見て〜!!! きれいな夕焼け〜!!!」
そんなとき、機内から女の子の声がした。ぼくは、西の空を見た。
あのときのような美しい夕焼けがそこにあった。他の乗客もきれ
いな夕焼けを見て、嬉しそうにしていた。緊迫している世界情勢と
は違い、中(機内)は穏やかな空気で満ちていた。
そうなのだ。ぼくの仕事は、爆弾や兵隊ではなく民間人を運ぶこ
となのだ。そう思うと、ぼくの気持ちはやわらいだ。彼女は何もし
ないぼくを責めたりはしないだろう。彼女の分まで頑張ればいいの
だ。「それでいいのよ」という彼女の声が聞こえた気もした。