ある飛行機の生涯
「ジーサス!!! 同僚がビルに激突した!!!」
「誰か助けてくれ!!! ハイジャックされているんだ!!!
操縦が手動になっててコントロールできない!!!」
「同じ会社同士で今すぐ点呼を取れ!!!」
「詳しい情報をくれないか?」
「空軍機が非常事態だと言ってるぞ!!!」
「核戦争でも始まったのか? それとも、またパールハーバーが
攻撃されたのか?」
飛行機同士が叫び合っており、収拾がつかなかった。だけど、
大変なことが起きていると思った。そこでぼくは、パイロットが使
う無線を聞くことにした。
パイロットと管制官の会話が聞こえてきた。みんな狼狽えていた。
話を聞いたところ、ニューヨークの世界貿易センタービルという高
いビルに、飛行機が突っ込んだらしく、他にも連絡がつかない飛行
機が何機かいるらしい。
そして、突っ込んだ飛行機のことを聞いた途端、ぼくは愕然とし
た……。
間違いなくそれは、彼女のことだった……。さっきの声は、彼女
の声だったのだ。それも別れの……。
ぼくは信じられないといった様子で飛び続けた。飛行機同士の秘
密無線に切り変えてみると、さっきよりも大混乱になっていた……。
「おい!!! さっき、ハイジャックにあっているといった飛行機
はどうしたんだ? 誰か連絡つかないのか?」
「クソったれ!!! ペンタゴンがやられた!!! アカの戦闘機
はどこを飛んでやがる?」
「オレも乗っ取られているが、乗客が立ち上がろうとしてくれてい
る。オレにできることは何も無いが、オレのためにも頑張ってほ
しいな」
「知り合いにエアフォースワンがいる奴はいないのか?」
「ビルが崩れ始めているらしいぞ!!!」
到着までの間、ぼくは無線を聞き流しながら飛び続けた。パイロッ
トさんたちは、乗客を落ち着かせたり、情報収集をしたりと大忙し
だった。
その日は、ぼくたち飛行機にとっても、世界が変わった日だった
……。