ある飛行機の生涯
第3章 時は流れ
それから、数年の月日が流れた……。
その数年の間に、世界はどんどん暗いものになっていた……。
20世紀は戦争の世紀だというが、22世紀にこの21世紀は何と
呼ばれるのだろうか……。
飛行機たちも大きく変わり、互いを疑うようになっていた。ある
飛行機は、乗客の中にアラブ人がいただけで大騒ぎしていた……。
そんなとき、ぼくが所属している航空会社が危機に陥っているこ
とがわかった……。このごろ、パイロットさんやスチュワーデスさ
んが元気じゃなかった理由がそれだった。
そして、ぼくがいた航空会社『JAL』は経営破綻した……。あ
の初老のパイロットさんも去っていった……。
先輩はひどく落ち込んでいた。いつも元気な先輩とは思えなかっ
た……。
「オレ達、スクラップになるかもしれないぞ……」
先輩は怖いことを言った……。それは、死ぬということだからだ…
…。
「でも、売却かもしれないですよ!」
ぼくは自分にも言い聞かせるにそう言った。
「どうかな? どこの航空会社も、オレ達みたいな金喰い虫より、
経済的な新型のほうがいいと思っているぞ。バブル時代の生まれ
のオレ達なんて、もう用済みさ……」
先輩はそう言うと、寝てしまった……。
ぼくも寝ようとしたが、これからのことを考えると、あまり寝つ
けなかった……。
そして、ある日を境に、ぼくは空を飛ぶことが無くなった……。
先輩もぼくと同じで、ぼくたちは格納庫に放置された。警備員さん
や整備員さん、ぼくたちを買おうと見に来る人以外、人間を見るこ
とは無かった……。格納庫の中にも、現役の飛行機たちの音が聞こ
えてきて、ぼくたちはそれを聞かないようにした……。
ぼくはどんどん悲しくなった……。もうたくさんの人を乗せて、
空を飛ぶことはできないのだと、そして、あの美しい夕焼けを見る
ことは二度とできないのだと……。