ある飛行機の生涯
ぼくの初めてのフライトは順調に進んだ。パイロットさんの腕は
良かった。自動操縦(つまり、ぼくが操縦するわけだ)に切り替わ
ったとき、宙返りなどをしてみたくなる気分になったが、やめてお
いた……。
中のお客は、どうやら上京帰りの愛知県民ばかりらしく、「みゃ
ーみゃー」と名古屋弁でうるさかったが、まだ我慢できる範囲だっ
た……。
気をまぎらわせようと左右を見てみると、西の空にきれいな夕焼
けがあった。地平線の向こうに、太陽がゆっくりと沈んでいくのが
よくわかった。ぼくはその光景を見て、悲しいような空しいような
不思議な気分になった……。
「おみゃー、見てみぃ! 夕焼けがきれいだがね!」
「ほんとだぎゃー!」
……そんな気分はすぐに、乗客の名古屋人たちにブチ壊されちゃ
ったよ……。
すぐに、ぼくはこの仕事が大好きになった。パイロットやスチュ
ワーデスといった乗務員の人たちも真面目で親切な人ばかりだ。
空港で出会う他の飛行機たちも、乗客を乗せて運ぶこの仕事が大好
きなようだ。
しかも、ぼくはファーストクラス付きのジャンボジェット機なの
で、ジャンボジェット以外の他の飛行機からは羨ましそうな表情で
見られた。だけど、貨物機からは嫉妬されているようで、すぐとな
りに駐機されたときなど、すごく気まずかった……。ヨーロッパ生
まれの大型貨物機『ベル−ガ』からは殺気すらしたよ……。もちろ
ん、自分の仕事を誇りにしている貨物機もいた。人次第ならぬ飛行
機次第というわけだ。