新世界
父の意外な一面を知ったようで驚いた。私の知る父は何においても厳しくて、身体の丈夫でない私を厄介者扱いしているのだと思っていたが。
「フェルディナント様が宰相になった時、旦那様が仰っていました。フェルディナント様は人当たりが良くても意外に頑固だから、陛下に意見することがあるのではないか――と」
「私からみれば、父上がそこまで私に関心を持っていたとは思えないがな」
記憶の糸を辿っても、父から優しい言葉をかけてもらったことは一度も無い。何かと注意ばかりで、体調を崩せばまたかと冷たい素振りをする、そんな記憶しかない。
「面と向かっては厳しいことしか仰らない御方でしたから。フェルディナント様の前でハインリヒ様の話をしても、ハインリヒ様の前でハインリヒ様の話をする訳ではありませんし……。あら、話し込んでしまいましたね。もうこんな時間ですから、早々にお休み下さい」
ミクラス夫人は時計を見て言った。話がいつのまにか父の話となってしまったが、少し気が楽になったような感じもした。
そして――、私自身の覚悟も決した。
皇位継承の話が次に話題に上ったときには、それを引き受けよう。私が皇位を継承する時は、現皇帝が亡くなってからのことであり、その指示を仰がなくて済む。
ならば皇帝となった時の権限でもって、この国の体制を変えよう。旧領主層を抑えなければこの国を変えることは出来ない。そしてそれが出来るのは、皇帝という絶対的な立場にある者だけだ。
そして私が皇帝となれば――。
特赦を出すことが出来る。現皇帝によって追放に処されたロイを再び帝国に呼び戻すことが出来る。
無論、私の見通しは甘いのかもしれない。たとえ皇帝となっても様々な課題が山積することだろう。旧領主の特権を廃止することで、彼等の不満も募ることになる。
それに現皇帝は健在であり、私が皇位継承権を得てもこの先数年は現皇帝の執政が続くだろう。私はその間に、共和制移行への土台を作っておく必要がある。
そう考えると、少し先が見えたような――自分がやらなければならないことが解ったような気がした。