愛されたい 第九章 離婚と再婚
「近くのコンビニに居るらしいけど、母親に内緒で家を出たらしい。今そこに向かっているけど、心配なんだ。時間あったら、島田のサークルKに行ってやれないかと思って電話した」
「私が?あなたが来るまで美咲ちゃんと待っていて欲しいということ?」
「そうだ。ダメかい?」
「心配よね・・・夫が家に居るから車で行くわ。慌てて事故起こさないようにしてね」
「ありがとう。助かるよ」
通称飯田街道と呼ばれる国道153号線の島田交差点にコンビニはあった。家から道が空いていたので20分ほどで智子は到着した。美咲は顔を見るなり走ってきて、智子に抱きついた。
「おば様・・・」
「美咲ちゃん、大丈夫よ。お父さんもう直ぐ来るから。私の車の中で待ってようね」
「はい・・・」
「何も話さなくていいのよ・・・しっかり抱いていてあげるから、安心しなさい」
智子は後部座席で美咲としっかり抱き合って座っていた。落ち着いたのか泣き止んで顔を上げて智子に話し始めた。
「お父さんに逢いたかったの。どうしても逢いたかったの」
「そう・・・昼間の事思い出したのね。可哀そうに・・・」
「おば様、違うの。別れて家に帰ったら家に男の人が来てて、お母さんに再婚するって言われたの」
「そうなの!前から話されてなかったの?」
「うん、突然だった。その人とはお父さんと暮らしていたときから付き合っていたって聞いたの。それって・・・私を裏切っていたことなのよね?違う?」
「・・・本当のことがわかったのね。お母さんにもいろいろとあったかも知れないけど、美咲ちゃんに話すなんて・・・残酷だったわね」
「美咲、もう家には帰らない・・・あの人と一緒になんか暮らせないし、お母さんもイヤ!」
気持ちが興奮していたせいかも知れないが、母親を拒否する気持ちも理解できた。17歳には受け入れられない男と女の部分でもあった。
若い頃の純真な気持ちは真っ直ぐで曲がった考えや、裏切るような行動には理解出来ないどころか、嫌悪感さえ抱く。言い切れない寂しさや、疎外感、まして満たされない女心など少女に理解させることは無理なことだった。母親の浮気は美咲には理解出来ない以上に精神的ショックを与えてしまった。そして父親の浮気がなかったことを知った後では、その反動も大きかった。家の中でじっとしていることが出来なくなって、無意識に外に出て行ってしまった美咲を母親の香里はそれほど心配もせずにいた。
横井の車が駐車場に入ってきた。ドアーが開いて降りてきた父親を見て美咲は智子の車から降りた。
「美咲!」
「お父さん!」
二人は見つめあった。智子と一緒に居て気持ちが落ち着いていたから、少し身体を寄せるような仕草をしただけで、話が出来る状態になっていた。
「何があったんだ?話せるか?」
「うん、大丈夫だから」
「そうか、よかった」
「お母さん、再婚相手を家に連れてきたの。きっとお父さんも知っているひと」
「あれから会ったんだな。誰だ?知っている人って」
「お母さんが浮気していた人・・・小学校の時から」
「そうか、別れていなかったんだな・・・再婚するなんて、お前に相談してからに何故しなかったんだろう。どこまで自分勝手なんだ」
「もうお母さんに会いたくない・・・一緒に暮らしたくない。お父さんの家に行きたい」
「美咲、お父さんには仕事がある。お前の世話が出来ないけど構わないのか?」
「新しいお母さんと一緒でもいいよ。美咲仲良くするから」
「解った。一緒に暮らそう。新しいお母さんは直ぐじゃない。美咲が気を遣うことはないよ。今からお父さん香里にあって話すから、一緒に来るか?それとも智子さんと待っているか?」
「おば様と待ってる・・・お父さん一人で話してきて」
「そうする。智子さん頼むよ。向かいのデニーズで食事して待っていてくれ」
「解りました。美咲ちゃん車に乗って」
「はい」
横井はものすごく久しぶりに香里の家に向かっていた。玄関のチャイムを鳴らす。ドアーをあけて顔を出した香里は驚いた。
「行雄さん!・・・何故?」
「久しぶりだなあ・・・中に入れてくれないか?話があるんだ」
「何の話?ここじゃいけないの?」
「近所に聞かれてもいいんだったら話すぞ。美咲のことだ」
「美咲のこと?美咲がどうしたって?」
「家を出て行っただろう?知っているのか?」
「自分の部屋にいるわよ!変なこと言わないで」
「じゃあ見てこいよ。いないから」
香里は美咲の部屋を見て戻ってきた。
「どうしたのかしら、いないようだけど」
「おまえそれでも母親か!」
「何よ!一々娘の行動を監視してないといけないって言うの?」
「今日は特別だったんだろう?美咲はお前の浮気を知ってしまったんだぞ!話したんだろう?」
「浮気したなんて言わなかったわよ。勝手にそう取ったんじゃないの」
「違うよ。再婚相手の素性が解ったら美咲もそうだったんだ、って思うよ。話し方がいけなかったんじゃないのか?美咲の気持ち考えて話したか?」
「どうせ解ることだったからハッキリと言っただけよ。うそ言っても仕方ないでしょ」
「うそ言うんじゃないよ、余計なことは言わなくてよかったんだよ。まあいい、話してても時間かかるだけだからはっきりと言うけど、美咲は俺が連れて帰るからその事承知しろって言いに来たんだ」
「あなたが連れて帰る?一緒に暮らすって言うこと?」
「美咲もそうしたいって言ってるしな。後で荷物取りに来るから責めたりするなよ」
「美咲がそうしたいのならそれでいいよ。親権を移すから、あなたが手続きして頂戴ね」
「簡単なんだな・・・美咲は邪魔か?」
「何言ってるの!本人があなたのところに行きたいって言ったのなら仕方ないことでしょ!もう17歳なら大人なんだし。邪魔とか言わないでくれる!」
「再婚相手と仲良く暮らせよ。ラブラブなんだろう、どうせ」
「やらしい言い方するのね。あなたこそいろんな女の人と仲良くしているんでしょ!相変わらず・・・」
美咲が可哀そうに感じた。こんな母親の元で育てさせたことが横井には悔やまれた。
ファミレスで軽く夕飯を食べながら美咲と智子は横井を待っていた。
「お父さん、お母さんとうまく話せているかなあ・・・喧嘩になっていないといいけど」
「大丈夫よ。もう他人なんだし。それより美咲ちゃんお父さんの家に行ったら、学校まで通うのが大変になるわね。頑張れるかしら?」
「電車でどのぐらいかかるのか知ってます?おばさま」
「そうね、私も15日から半田に通うから時間調べたんだけど、金山駅と知多半田は急行で30分少しなの。学校から自転車で地下鉄の駅まで行けばそこから金山まで10分ぐらいだから、1時間あれば通えると思うわ」
「朝7時には家を出ないといけないって言うことになるんですね・・・早いなあ」
「そうね、でもそれが出来ないって言うなら一緒に暮らすのは無理よ」
「頑張れるって思います。あと一年ですから」
「そうよね。美咲ちゃんはどこの大学に行こうって考えているの?」
「大学?行かないつもりですけど・・・考えたほうがいいですか?」
「行かないって?就職したかったの?」
「母のお店手伝おうかって考えていましたから、美容学校にでも行こうって思っていました」
作品名:愛されたい 第九章 離婚と再婚 作家名:てっしゅう