世界の彼方のIF
「な、何のことですか?!」
俺、面食らう。
「何って、これからタイタンへ行って、ロボットの監視下で働いてもらうんじゃないか。文書にもそうあったろう」
タ、タイタン? ロボットの監視下?? 働く?! 何言ってんだ、このおっさん。
「俺は、ラッキーなんでしょ?」
「君は、ラッキーなんだろう?」
二人の声が重なった。おっさん、笑顔になる。
「You are lackey, not lucky.」
あなたは、ラッキーじゃなくてラッキー?
状況が呑みこめないでいる俺を、両脇のロボットが抱え上げる。そのまま広間の奥にあるロケット搭乗口へ。俺、必死に抵抗。
「おい、おっさん、じじい! ロボットの下僕になることのどこがラッキーなんだよ!」
ぱちぱちぱち。
のんきに拍手してる場合かーっ!
「実に正確に理解しているじゃないか。悪く思わないでくれ、政府の提案なのだよ。宇宙進出が日常となり、地球上の国境は失われた。英語が母星語となって久しいにもかかわらず、いまだ習得できない者がいる。当然、職にも就けない。言語を使わぬ仕事ならロボットで間に合うからな。君のような若者に生活保護費を与え続けるのは、大いなる無駄というわけだ。それならいっそ発展途上星へ労働者として送りこんではどうか。この手のタイプは能みそを使ってない分、すこぶる健康体らしい。実に合理的じゃないか。なぁに、難しいことはすべてロボットがやるから心配しなくていいぞ。母星のため、Have a nice journey.」
「いい歳こいて、何が『じゃあねぇ』だ。気色悪いぞ、コラーッ!!」
わめき散らす俺の眼前で、ロケットの扉が無慈悲に閉まった。
完