世界の彼方のIF
送られてきた文書は全文英語。もちろん読めるわけがない。わからないだらけのまま、とりあえず一張羅のスーツに身を包み、NASAの本部へと向かった。ラッキーボーイってことは、わかってるんだ。この先に待ち受けてる事態も、ラッキーなことの筈。
しかし、着くなり通されたのは狭くて質素なコンクリート部屋。かれこれ30分ほど経つのに、コーヒー一杯出てこない。
うぅむ……ラッキーボーイに対し何たる失礼。ジェット機から降りたときも、美女一人、花束一つ出てこなかった。
と、ドアが開いて、NASAの制服を着た若い男とロボットが二体入ってくる。男は東洋人だった。
「お待たせしました。では、こちらの服に着替えてください。支度ができた頃、また来ます」
そう日本語で告げるや、ロボットを残して出て行ってしまった。が、渡されたのはどう見ても作業着。はて?
何らかの式典に出席するとばかり思ってた俺は、首をひねった。最近の祝い事は質素主義なんだろうか。それにしたって作業服はひどすぎる。NASAは品位を棄てたのか。
着替えおわったところで再びドアが開いた。俺は両側をロボットに挟まれながら、案内役の男のあとをついて行く。
「あの〜、俺って何のラッキーボーイなんですかね? まだ詳しいこと聞かされてなくて……」
「もうじき解りますよ」
男は意味深な笑みを浮かべるだけ、それ以上答えようとはしない。
両開きの大きなドアがスライドすると、その向こうで歓声が上がった。
「おお〜、やっと来た。50人目のラッキーくん」
出迎えたのは、様々な国籍の学者風の男たちだった。
待ってました、こうでなくっちゃ! 俺はラッキーボーイなんだから。
一番手前の列にいた髭面の男が歩み出る。西洋人だったが、実に流ちょうな日本語で話しかけてきた。
「これでプロジェクト発進だ。期待しているよ。存分に頑張ってきてくれたまえ」
は? プロジェクト発進? 頑張ってきてくれ?