世界の彼方のIF
ラッキーボーイ
けたたましい呼び出し音で目が覚めた。
っだよ……まだ10時じゃないか。こんな朝っぱらから一体誰だ?
低血圧の俺は毛布にくるまったまま、床を這いずってTV電話のある場所へ辿りつく。スイッチを入れるや、呼び出し音以上にけたたましい女のキンキン声が飛びこんできた。
「Good morning, sir! This is Anna Baker of XY Temporary Personal Services!」
な、な、何だぁ?
自慢じゃないが、学生時代の英語の成績はアヒルだった。進級しても成長することなく、かといって退化することもなく。大学まで16年間、ずっとアヒル。
女はそんな俺に対し、手加減一切なしの英語をまくしたててきた。
全然わからないっつーの。間違い電話じゃないか?
スイッチを切ろうと手を伸ばした瞬間――。
「Don’t turn it off, sir!」
……怒鳴られた。英語だから余計にビビる。意味はわからないが、切ったらマズイという雰囲気は、わかる。
ちくしょう……画像モードにしなきゃよかった。
ようやく晴れた頭と視界で改めて女をとらえると、かなりの美人。俺の沈黙に気を悪くすることなく、笑顔のままで必死に何かをうったえている。
その中で、繰り返し口にする言葉があった。
ユーアーラッキー。
これくらいなら俺にもわかる……って、俺がラッキー?
女は俺を見つめて何度もそれを口にする。そういや、最近応募した懸賞に火星旅行があったな。それが当たったのかもしれない。彼女は旅行代理店のスタッフか何かなんだろう。
ようやく理解した俺の耳に、今度は別の言葉が浴びせられる。
カムヒア。
ここへ来いってか。やっぱ当選の連絡なんだ。どーせ毎日暇人だ。断る理由も、つもりもない。懸賞なんだから、こっちの費用負担も、ない。
俺は笑顔でOKのジェスチャーを送った。
「We’re looking forward you seeing you. Thank you, sir!」
自動的に画像が切れる。と同時に、一枚の文書と目的地までの地図がファックスされてきた。俺は仰天した。送信元はNASA、アメリカ航空宇宙局だったのである。