悲雨
診察室を後にし、妻が眠っている集中治療室へと赴いた。
その姿を見て初めて久美子が瀕死状態だということが現実味を帯びてきた。
愛する妻が無数の管に繋がれて眠っている。生きているというより生かされているという表現がピッタリだった。
しかし、久美子はやけに安らかな顔をしている。
その姿を見てまた目頭が熱くなってきた。久美子は極度の重傷で包帯だらけだった。すごく痛々しい。
医者の話によると外傷があまりにもひどいそうだ。それだけでなく脳にもいくらかダメージはあるらしい。
啓介は手を握った。ここにいるよと伝えたかった。
だが、安らかな顔をしている妻の手は冷たかった。生きているものの温もりではなかった。
それでも生きているのだ。それだけでもありがたい。もし即死だったらと思うと自我を保っていられる自信はない。
啓介は泣いているらしかった。視界がぼやけるのだ。喉元に何か詰まったように苦しくなり涙が床に落ちた。
いいようない後悔、悲しさが彼を襲った。
啓介は全身を震わせ、声を殺して泣いた。
ピーピーという機械音。
目を覚ますと、看護師が血相変えて走ってきて何かしているらしかった。
啓介はボーッとしていた。最早、蚊帳の外だった。
何が起きているのわからなかった。