悲雨
――「午前4時51分、ご臨終です」
ある男が大声で泣いている。
雨が降っているらしかった。
雨のにおいがした。
すべてが終わるころには何もかもが終わっていた。
白い集中治療室の景色が白黒に染まっていく。
思考がすべて黒色に塗りつぶされる。
もう、ずっと一人だ。
もう誰もいない。
景色が歪む。
頭痛がする。
虚無感。
次第に視界が真っ暗になる。
妻のいないこの世界に何の価値があろうか。
悔しい。
悔しい。
しかし、どんなに悔しがっても死者は蘇らない。
啓介の視界は次第に暗くなっていった。
もう晴れることのない黒に染まっていく。
最早、啓介に自我はなかった――