短い恋
ファミリーレストランの前で早川は車を停めた。
「せっかくここまで来たのに、今日もお食事、だめなんですか?」
暗い表情で肯定し、早川が荷物を渡しに行くと、
「じゃあ、わたしの携帯番号を……」
高級ブランドのバッグから麗奈は携帯電話を取り出した。そして、早川の番号を訊きだすと、驚異的な素早さで入力した。
「ワン切りしちゃいました!大金を請求されるかも知れませんよ」
「請求されても、対応できませんよ」
「じゃあ、諦めます。今夜、必ず電話してくださいね」
麗奈は突然早川の手を握った。そして、二人は凝視め合った。
麗奈の背後のレストランの建物は、照明を浴びていつになくきらびやかに見える。
手を握ったままの彼女は、逆光の中で彼を凝視めたまま、やや顔を赤らめて優しく微笑んでいた。麗奈は光り輝く宮殿を背に立っている、お姫様という趣である。早川は夢を見ているような気持ちだった。胸がどきどきしている。
彼は麗奈を抱き寄せ、くちづけをしたいという衝動に耐えながら、
「時間は、いつ頃にしますか?」
「いつまでも待ち続けます。何時まででも起きて待っています……あなたと一緒に寝たいの……同じ時間に」
早川はそのことばを耳にすると目眩を起こしそうだった。麗奈が手を離した。急に風が強くなったような気がした。さようならと、二人は同時に云った。