短い恋
「わたし、嬉しいです。どうぞ、その気になって参加してください。本当に、裏切らないでくださいね」
早川は二日前に釣りに行き、大物が釣れたことを再び思い出していた。
日曜日の朝の九時過ぎだった。ときどき行く埠頭の岸壁だった。その魚の当たりは、最初は極く弱いものだった。それが三回目に、ガツンときた。どのくらいの時間だったろうか。
それまでの強烈な重い手応えが急に消えた。糸を切られたのだと思ってどんどんリールを巻くと、大きな魚体が浮かび上がって驚かされた。だが、それからの時間が長かった。近くにいた釣り人のタモにすくい取られたのは、最初の当たりから四十分後のことだった。
その魚は、重さ四キロのクロダイだった。そんなことを思い出しているうちに、レストランが見えるところまで来ていた。
「どうしたんですか?急に黙り込みましたね」
「考えていました。仕事のことを……」
練習のあとはいつもサークルのメンバーの半数程度が、テニスコートからそこに移動し、食事をする。
半年くらい前だろうか。早川は一度だけ行動を共にしたことがあるのだが、そのときに佐武太朗という、コーチをしている男と衝突した。毛深い大男の佐武は、過去にプロレスラーをしていたという噂もある男だった。早川は極く基本的なことの繰り返しに終始するばかりの退屈な練習のカリキュラムが気に食わなかった。そのことで自分と同じ三十四歳の佐武と、半ば怯えながら対立した。それ以来生じた確執が、敷居を高くしていた。