短い恋
「あの合宿のときが生で見た最後だったな。あれからもう三年だよ」
「そうだな。でも、正確に数えてみると二年と十一か月だよ」
二人は立ち上がり、バケツの水を棄てたりし始めたが、佐武の動作が急に止まった。
すぐ傍で小学校の三年生くらいの男の子が、大きなクロダイを釣りあげたのである。誰かがそれを見て叫ぶと、大勢の大人たちがその子の周りに駆けつけてきた。そして、質問攻めにした。男の子はうまく応えられずに泣きだしてどこかへ逃げてしまった。
「俺もさあ、来年早々、身を固めることにしたんだ。だから、ここに来るのは今日が最後かも知れない」
テニスサークル、ストロークのマネージャー的存在の女性と、佐武が親しくなったのは、最近のことらしい。そろそろ新しい出会いをしてみたいものだと、早川も思い始めている。
「結婚式に呼ぶから、よろしくな」
「スピーチとか、余興は勘弁してくれ」
「そんなこと云うなよ。じゃあ、お前も頑張れよ」
釣り公園の外に出て佐武と別れてから、早川はその近くに日帰り温泉があるのを思い出した。