短い恋
消え去った夢
その日、早川学と佐武太朗は、夜明け前から釣り公園に来ていた。彼らは、もう六時間も海を見ている。現在の時刻は午前十時である。
そこへ釣りにきているのは二百人に近い人々だった。早川たちのような男の二人組も少なくない。ほかに、家族連れ、カップルなど様々である。
沖を観ると大きなフェリーが悠々と航行している。見上げると上空には白い海猫たちが飛び交い、更にその上空にはチョウゲンボウかトビが、ゆっくりと旋回していた。子供たちはタコが釣れたと云って大騒ぎをしている。
早川たちは、釣り餌のアオイソメも残り少なくなくなったので、間もなく帰宅の途につこうという話がまとまったところである。
「今日は朝から驚かされたよ。麗奈さんは女優をやめて、ひとまわり年上の医者と結婚するらしいな」
佐武がそう云うと、早川は無表情で応えた。彼は麗奈がテレビ画面の中で微笑みながら、婚約会見という名目で話している姿を思い出していた。
「まあ、いいんじゃないの」