短い恋
「いやぁ、綺麗だったぁ。最初オレンジっぽかったのが、途中から緑っぽく……」
「最後二つに分かれたの。緑と青に。それって何かの暗示だったりして……」
「お前たちの悲惨な運命を宣告したんだ!」
ぎょっとした。佐武がすぐ傍に居た。野太い荒れた声。耳元で怒鳴られた感じだった。そして酒の臭い。
「佐武さん!」
二人が同時に叫んだ。
「てめえらにはもう、コケにされねえ!」
更にどすのきいた声。強烈な光。眼が眩んだ。大型の懐中電灯だった。早川は顎を殴られた。激痛が走った。
早川は麗奈の悲鳴を聞きながら、湿った土の匂いのする地面に落ちた。若い女の、恐怖におののく悲鳴は更につのった。麗奈が佐武にさらわれる。そう思うと早川は焦燥感の塊になった。
早川は金縛り状態になっている。足も手もまるで動かない。右顎の痛みは相変わらず続いている。口の中には血の味が広がっていた。違和感がある。この静謐はおかしい。