短い恋
そこの船頭は有名な人物だった。魚の動向を察知することに於いての名人だった。そして、非常に好感の持てる人物でもあった。その人が急性の病のために他界したという。
戦慄と共に早川は深い哀しみに襲われていた。
その老人は優しい心遣いを、どの釣り人にも示した素晴らしい人物だった。ほかの船が不漁でも必ず釣れる場所にその船頭は的確に船を移動し、常に釣り人たちを喜ばせた。その名人の急逝により、伝統ある名船宿を閉じることになったのだった。
なぜかその人の死が、麗奈の運命を暗示しているように早川には思われた。
彼女が芸能人になれば、どんな危険人物がまぎれているかも知れない群衆に、包囲される局面も想定される。極端な場合、テロ行為の犠牲になることもあり得るのだ。
しかし、早川には彼女を護ってあげることはできない。
早川はかつて愛する両親を喪い、更に最愛の女を喪って再び孤独の奈落へ堕ちて行くしかない。もはや生きる気力さえ失せてしまったような気がしている。
「学さん。どうして哀しそうな顔してるの?今日は愉しみにしていたテニスができなかったけど、明日はできるわ。落ち込まないで、学さん」
入浴を済ませたばかりの麗奈が、長くて綺麗な脚を露わにしたショートパンツ姿で駆け寄った。