短い恋
風呂上がりに宴会場兼休憩室の広い畳敷きの上で、手持無沙汰の早川は、自動販売機で入手した缶ビールを呑みながら麗奈を待つことにした。
携帯電話の画面で、今日の釣りの速報を眺めた。いつもの乗り合いのキスの船は今日も好調だったらしい。だが、その船で一度だけ、ひどい目に遭ったことを早川は思い出した。
その日は暑い日だった。沖に出るとキスは二十五センチクラスが面白いように釣れた。お祭りが始まったのは午前九時頃だった。隣の釣り人の仕掛けと早川のものとが絡んでしまった。ほかのひとたちも同じことで悲鳴を挙げた。潮流がおかしくなっていた。急に釣れなくなってから、間もなく嵐がきた。
大揺れの船の上で、早川は足を滑らせて転倒し、非常に気に入っていた舟竿を折ってしまった。
それを思い出した彼は思わず畳を叩いた。
近在の農家の人たちだろうか。全員が怪訝そうに彼を一瞥した。
携帯電話の画面をスクロールして行くと「今日の出来事」として、或る釣り宿の店じまいについての記述があった。